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Bad Day②

ラブホ街にある白い立方体の建物に入った。窓枠から黒い線がいくつも垂れており汚い外見だが、中は意外と清潔で、驚くほど安いのだ。 休憩3時間で1600円の部屋はキングサイズのベッドが部屋の8割を占拠していて、壁にAVを見るためのテレビがかかっている。風呂も窮屈なユニットバスだ。 エアコンが効いていて寒いくらいだが肌を合わせるには丁度いい。 ダニエルは緊張しているのか顔を強張らせながら部屋を見渡す。 「初めてなの?」 背を向けるダニエルは肩を跳ね上げ、消え入りそうな声で、はい、と答えた。 「ふーん。上と下どっちがいい?」 ダニエルは答えず、俯いたまま斜めがけのカバンの紐をぎゅっと握りしめている。 「俺はリバだからどっちでもいけるけど。 あ、なんならケツ洗ってくるけど」 ギョッとした顔で振り向かれた。 一々動揺してんじゃねえよ。イライラする。 「早くして。時間ないから」 「その・・・あの・・・どっちも自信なくて」 ああ?自信あるかないかじゃなくてどっちがいいか聞いてんだっつーの。 ヤバイ。イライラしてきた。 「わかった。じゃバニラでいい?」 「バニラって?」 「挿入しないセックスのこと」 「そんなのあるんですか?!」 だから一々リアクションしてんじゃねえよ。 けれども、少し緊張が和らいだようだ。肩と顔から力が抜けている。 「じゃあそれで」 「うわっ、ちょちょちょ・・・」 服を脱ぎ始めたら、またこれだ。 苛々をため息と一緒に吐き出した。 今日のBGMを頭の中で再生させる。 イントロの繊細な和音が心を撫で付け平坦にしていく。 やはり音楽は偉大だ。 「ハイハイ、そこに寝て」 ベッドを指差す。 「もう面倒だから、俺が全部やるわ」 え、でも、とグズグズしやがるから、もういいやってなって、突っ立ったままのそいつの頭を引き寄せて強引にキスをする。 ダニエルはガッチリと目も唇を閉ざしている。それにまたイラッとして、喉元に噛み付いてやった。 水面から顔を出したみたいにプハッと口を開けた瞬間、舌をねじ込む。 あ、コラ戻そうとすんな。 後頭部を掌で掴んで顔を押し付けた。 奥に引っ込めた舌を吸い上げると、着てきたTシャツの胸元をくしゃりと握られた。 痛って。肉まで持ってかれた。 一旦顔を離してダニエルの腕を首に回させる。ヤツの顔は戸惑いながらも、目の光は欲望に波立っていた。 今度はすんなり舌を絡ませる事が出来た。 やれやれ、と思いながら、ベルトを外しジーンズを下ろす。ついでにダニエルの服も脱がせていく。 素っ裸でベッドになだれ込む頃には口の周りは唾液でベタベタになっていた。

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