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Trac03 Born This Way
『ーーーー私はこのように生まれてきた』
『ーーーー私は正しい道にいる』
レディ・ガガ/ Born This Way
「なんだよ、この女。メシの用意くらい自分でしろよ」
「なあに?」
「こいつ妹なんていたの?こいつも大概だな。嘘泣きとか最悪。こういうガキは今のうちからシバいて躾しておけ」
「お前なあ!」
カホと顔がアンパンで出来ている主人公のアニメを見ていると、ユウジに後ろから思い切り叩かれた。
いってえな。腰に響くだろうが。
「子どもの夢を壊すこといってんじゃねえよ」
「いや、こんなワガママが通るのが許されるとか思うほうが教育に悪いだろ」
「子ども向けのアニメにケチつけんな!
大人気ない!」
「カホテレビやめる」
しゅんとするカホに、ユウジは慌ててごめんね、と謝った。
「ほら元気だせよ、お前の好きなヤツ出てきたぜ」
顔がメロンパンで出来た女が映ると、カホはまた真剣に見始めた。
テレビが終わるとハジメちゃん遊んで!と纏わりついてくる。
俺はガキの、ましてや女の遊びなんて知らないし、付き合ってやってもイマイチよく分からない。
だから、大抵ピアノを弾いてやる。
普通の半分の大きさしかない小さな電子ピアノだ。
C《ド》に合うのはE《ミ》かな、D《レ》に合うのはF《ファ》かなとか何となく音を組み合わせ、例のアンパンの歌だのジブリだのを弾いてやる。
ガキの頃、姉ちゃんと一緒に無理矢理ピアノ教室に通わされた甲斐があったってもんだ。
「ハジメちゃんすごいねえ、上手だねえ」
カホはニコニコしながら鍵盤を覗き込む。
それからカホを椅子に座らせてやり、好き勝手に弾くのを眺めて時間を潰す。
ユウジが家事を一通り済ませると、カホはユウジと出かけて行った。
今日は2人でデートらしい。
帰ってくるまで時間はたっぷりある。
今日も恋人の真似事でもしようじゃないか。
ーーー午前10時。
俺は駅前のマックでコーヒーだけ頼んでスマホをいじっていた。
あーなんだよクソ。
もうとっくに来てもいいはずの時間なのに、相手は一向に現れない。
こりゃすっぽかされたか?
もう着いたか、とメッセージを送った。
斜め向かいのテーブルから電子音が鳴る。
そいつは周りを見渡し、スマホを操作する。
もういます、とのメッセージが届いた。
オイオイオイ。嘘だろ?
俺のスマホの音に反応し、そいつは振り向いた。長い髪が揺れる。レースのついた襟付きのブラウス、トドメはふわりと広がる花柄のスカート。
「鈴木さんですか?」と色白の顔が笑う。
どっからどうみても、女じゃねーか!!
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