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Born This Way③
次に連れていかれたのは小さい個人商店やらスナックやらが連なるビルだった。
あそこ、とアンは"オーダーメイドクロスnemu"とツタ模様で縁取られた小さな看板を指差す。
「ここな、キッチリ採寸して、一人ひとりの体型に合わせたの作ってくれるんよ」
階段を登るアンの目はキラキラしていた。
割と踵が高い靴だが、公園に向かう子どものように足取りが軽い。
「僕も、将来服作る仕事したいと思っとる」
ふぅん、と適当に返事をした。
ヤバイ。疲れてきた。
慣れないことばっかで精神的にキてんのかもな。
ここ。とアンは足を止める。
無機質な白い壁に、無垢の木の扉が嵌め込まれていた。カホに読んでやった絵本に出てくるような。
アンはわざとくすませてある金属製のノブを回した。
「うおっ」
思わず声が出た。
ドアの中は、アンティーク調の壁紙やら飾りやらで、まるでどっかの洋風の屋敷だ。
これまたアンティーク調の木枠のカウンターが目の前にあり、その奥は臙脂の厚いカーテンで目隠ししてある。
中を観察しているうちに、アンは店主らしき大柄の女から紙袋を受け取っていた。
「なあに、カレシ?」
女は茶色い大きな目を好奇に細めた。
「そう。今日だけね」
アンはニコリとする。
女はへぇーとニヤリとした。
「カンナさん、これ着てっていい?」
「いいよ。折角カレシがいるんだもんね」
カンナと呼ばれた女は折角渡した紙袋を持ってカーテンの奥に消えた。
が、ついでだから、とアンも呼ぶ。
2人して居なくなってしまった。
服を取りに来ただけなのに何でこうも時間が掛かるんだ。やっぱ女といるとめんどくせえわ。
思ったより早くアンは出てきた。
なんだ、コートを着ただけじゃねえか。
だったらここでもいいだろうが。
「どう、カレシさん。チョーかわいくない?」
「さあな」
「ないわあ」
カンナは苦笑する。
「さっきより女の子っぽいシルエットになっとるやろ。さすがカンナさんやわあ」
確かによく見ると、肩が細っそりして、腰がベルトで絞られ、1枚服を重ねただけで全体的に華奢に見えた。
「カンナさんな、僕らみたいな人間のワガママ聞いて服作ってくれるんよ。ホンマ尊敬するわ」
「やだなあ、もう。もっと褒めてっ」
笑い合う2人を他所にスマホで時間を確認する。そろそろ12時を回る。
「もう昼飯間に合わないんじゃねえの?」
「じゃあ買って食べよ。ごめんね待たせて」
ビルを出て、これまた女が好きそうなカラフルな断面を強調したサンドイッチとカップに入った秋季限定の南瓜サラダをカフェで買う。
「コンビニのがいいじゃん」
「女の子の格好してないとこんなとこ入れへん」
そう言って無邪気に笑うアンはピクニックにでも行くようで。
そんなアンを連れて俺はホテルに入るわけなんだが。
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