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1人で生まれてきたのだから④

あー疲れた。 自分でイッた後ベッドに寝転がった。 「ごめんね、我慢できなかった」 大丈夫?と身体に手を置かれた。 「疲れた」 顔も見ずに答えると、杉山はふっと微笑んで、ありがとね、と頬を撫でた。それから顔をじっと見てくる。 「ホントにカワイイね。連れて帰りたい」 「嫌だね」 「まあ、こんなオジサンだもんね」 「違うっての。いちいち女扱いしてんじゃねえよ」 杉山は目を丸くした。 「そうかな」 あーあ、やっぱ早く帰ろ。 起き上がろうとすると、手を差し出された。 「そういうとこ。男だからいらねえっての」 手を払い、自分で起きると尻から腰にかけてズキリと痛んだ。 「ごめん、ついね。妻にもこんな感じだったから」 「じゃあ相当甘やかされてたんだな、アンタの嫁」 杉山はちょっと目を見開いて、それから急に泣きそうな顔になった。 「そうかな」 「そうだろ」 さ、シャワー浴びてこよ。 そうだったらいいな、と呟く杉山の背中が妙に寂しそうに見えた。  ホテルから出ると、帰りたくないなあ、と杉山はひとりごちた。 「帰っても1人だからさ」 「結婚する前は1人だったんじゃねえの?」 「そうなんだけどね。もうどうしてたか忘れちゃった」 杉山は肩をすくめる。 「あんなに独身に戻りたいって思ってたのに、いざ居なくなると寂しいものだね」 「勝手なもんだな」 「本当にね」 1人に戻るだけなのにね、と寂しそうに笑う。 「鈴木くんは一緒に暮らしてる人はいるの?」 「まあな」 「いいね。大切にするんだよ」 名残惜しそうに俺の頭を撫でて、杉山は帰っていった。 そういえば、俺は1人で暮らしたことがない。ずっと姉ちゃんが親代わりで、死んでからはユウジやカホとズルズル一緒にいた。 帰り道、ウォークマンのスイッチを入れて、途中まで聞いていた中島みゆきの曲を再生させる。 ーーーージャスミン もう帰りましょう もとの1人に すべて諦めて・・・ ーーーー1人きりで生まれてきたのだから 1人でいるのが当たり前なのよ 2人でなければ半人前だと責める人も 世の中にはいるけれど ーーーー1人で働いて自分を養う一生 THAT'S ALL それで終わり けっこうなことじゃないの 誰とも関わらなければ誰も傷つけない THE END それで終わり とても正しいことじゃないの・・・ 1人に戻るというのはどんな感じなんだろう。 風がすうっと首筋を冷やしていって、コートのジッパーを上まで上げて帰った。 マンションに帰ると、なんだか一気に身体が重くなった。とにかく疲れた。 「おかえり」 ユウジがダイニングで携帯をいじってた。 それを見たら、少し身体が軽くなった気がした。 杉山の言葉が蘇る。 「なんだよ」 じっと見ていたら、ユウジに変な顔された。 「何ニヤニヤしてんだよ、気色悪い」 「なんでもねえよ」 やっぱこっちの方が落ち着くな。 コートを脱いで椅子にかける。 「おいコラ脱ぎっぱなしにしてんじゃねえよ」 「うっせえな」 部屋の中は暑苦しいくらいで、もう寒くはなかった。

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