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Hated John⑤

木曜日、バイトが終わったらすぐ駅に向かった。各駅停車でしか止まらない駅で、結構時間がかかってもう夜の9時だ。いないかもしれない。 まあ、それはそれでいいのかもしれないけど。 「よ。いつもこんな時間までバイトしてんの?」 駅を出たら、ジョンが目の前のコインパーキングから歩いてきた。 畝りのある髪を軽く後ろに流して、黒いジャケットを着ている。その下の白いシャツから見える鎖骨が色っぽい。てか、もう制服に閉じ込められていたフェロモンがダダ漏れだ。 「車で行こ」 コインパーキングに停めた黒いフィールダーに乗る。 「ハイ、アウト」 助手席に乗り込むと、運転席に座ったジョンが言った。 「どこに連れて行かれるかわからないだろ?知らないヤツの車には乗るな。人ん家にもホイホイ上がるな。レイプや監禁されるかもしれないから」 無表情でそんなことを言う。 それから、斜めに掛けていた鞄の紐を引っ張って引き寄せられる。鋭くなった目つきにギクリとした。 「これも、アウト。首絞められるぞ。 紐の長いカバンはやめとけ」 「・・・マジで、今日するの?」 「どうしよっかなあ」 ジョンは楽しそうにエンジンをかける。 「あ、そうそう。待ち合わせ場所に来たら周りもよく見とけよ。何人かで待ち伏せされてることもあるから」 そんなことをダラダラと喋るジョンの言う事を適当に聞き流しながら、俺はラジオから流れてくるジャスティン・ビーバーの曲に耳を傾ける。 国道沿いにあるほとんど田んぼに囲まれたホテルまでドライブは続いた。 「そういやお前いくつ?」 車から降りてそう聞かれた。 「16」 「え、まだ16?よし、年聞かれたら18って言っといて」 ラブホの入り口には、18歳未満お断りと張り紙がしてあった。 「いいの?」 「女はアウトだけど男は合法だよ」 ジョンは涼しい顔で部屋のパネルを選んだ。 入り口用のエレベーターに乗って(行きと帰りでは別のエレベーターを使うなんて初めて知った)部屋に入る。 デカイベッドが部屋の半分を占めている。 その横の薄っぺらいテレビボードの上にはディスプレイ、下にはコップとティーパックのセットと小さな冷蔵庫。壁にはドアと窓が一枚ずつ。 「部屋に入ったら、壁紙の色を見とけ。 黄ばんだり変にくすんでたりしたら不衛生な証拠だし、ニオイも残ってたらヤク中や売人が出入りしている可能性が大だ」 ジョンはジャケットを脱いで、シャツの上からでも分かる筋肉質な身体を露わにした。 目の毒だ。鞄を下ろしてドアに向かってみる。 「ハイ、アウト」 ジョンが鞄を拾いあげる。 「財布からカネ抜かれるぞ。貴重品は離すな」 ま、今日は大丈夫だけどな、と元の場所に戻す。それから俺より先にドアを開ける。 どこの家にもあるような窮屈な洗面所があって、そのくせ隣の風呂場は広かった。身体を洗うスペースが浴槽の3倍くらい場所を取っている。 「備え付けのボディーソープとかは知らねえ奴の精液とか入ってたりする。 性病とかエイズの検査はたまに受けた方がいい」 壁に取り付けられたシャンプーやリンスが得体の知れないものに見えてきた。 「シャワ浣のやり方知ってる?」 「え、俺がネコやんの?」 「お、知ってるんだ。じゃあやったことある?」 「ないに決まってんだろ」 「やっぱハジメテなんだ」 何も言い返せずにいると、茶色いボトルに入った液体をコップに移して渡してきた。 「イソジン。これで口消毒して。知らないヤツから性病貰いたくないだろ」 ジョンは先にそれでうがいして、口を濯いだ。俺もやつに倣う。 「ここまで覚えた?」 「さあ」 興味深い話だったから、割と聞いてはいたけど。 「アウト。罰ゲームな」 そう言って、ジョンは俺の顎を掴んで唇を奪った。

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