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3『つかまえた。』
黒いランドセルが落ちている。
と思ったら、道端に子どもがしゃがみこんでいた。
「何か落としたの?」
振り向いた顔を見て、口角が上がる。大きな目に小さな唇。どストライクだ。
「つくし、摘んでる」
「つくし?」
「食べられるんだって」
「へぇ」
道端のつくしを摘みに来たのか。ここは幹線道路の抜け道でスピードを出した車が多く、通学路から外されているはずだ。周りを見渡すと、都合のいいことに誰もいない。
「つくし、うちの庭にたくさんあるよ。すぐそこだから一緒に来る?」
「ほんとに?」
その子は真新しいランドセルよりもっと目を輝かせて、キラキラした視線でまっすぐに見上げてきた。
いいなぁ。
泣かせたいなぁ。
背筋がゾクゾクする。
今日は、猫の写真もレアカードも必要なさそうだ。
裸にして首輪をつけて、四つん這いで部屋を歩かせよう。上手にちんちんができたら、褒めて撫でて、舐めさせてあげよう。
「行こうか」
差し出した手は、取られることなく。その子は両手で、俺の胸を強く押した。
倒れる俺の目に映ったのは、黒い翼に変わるランドセル。
大きく羽ばたいて飛び上がったその子は、トラックに高く跳ね飛ばされた俺の真横で、にっこりと笑った。
【了】
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