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14『タイトルなし②』

「なに見てるの」  手を止めて、不思議そうに見上げる視線に俺は笑った。  採寸用メジャーを巧みに使いこなすその手に色気を感じるのは、多分俺だけ。 「採寸とはいえ、働く男の手はセクシーだと…」  軽く睨まれる。実際、屈んだ姿勢を見下ろすと、ボタンが外されたワイシャツから覗く胸元や、引き締まったウエストにそそられる。  日没後はまだ寒い三月のある夜。俺は、恋人がテーラーとして働く銀座の紳士服店にいた。着いた途端に恋人にコートを剥かれ、立ったまま採寸されている。  大学院生という身分上、普段は縁がない場所だ。今日は自分の論文が国際学会の登壇発表に採択されたとの朗報を恋人に送ったところ、帰りに店に寄ってと言われ、この状況に至る。 「君は凄いよ」  恋人は黙々と採寸しつつ呟く。 「研究室に張り付いてデータを取って徹夜して。一番近くで見てきたのは僕だ」  十年近く芽吹かない研究に明け暮れていた。なのに恋人は何も言わずに側に居てくれた。 「冬があったから春の到来を喜べる。ようやく掴んだ春だもん。僕にも祝わせてほしい」  僕が仕立てたスーツを着て、と真摯な瞳が俺の心を掴む。 「学会では着映えするよ。君の魅力を一番分かってるのは僕だからね」

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