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13『待ち焦がれて』
食べごろの苺に囲まれてヤニスは項垂れていた。体育座りをした足下を草花が擽る。丘の上で大樹の葉がカサカサと揺れる音が春風に乗って少年の耳に届いた。
「まだかなぁ」
もうどのくらい待っただろう。それは何週間にも何か月にも感じられる長さだったが、ヤニスを囲む草木の色や苺の姿から言って、実際さほど時間がたっていないことは手に取るようにわかった。まだかまだかと待っているときに限って時間が過ぎるのは遅い。期待に心を膨らませているものの、少年の心は不安で押しつぶされそうでもあった。
「今日も来なかったらどうしよう」
待ち合わせ場所は間違っていないはずだ。春になったら会おう、とだけ言って去って行ったその人の顔を思い浮かべるとヤニスの頬は桜色に染まった。小柄な自分よりずっと背の高い男性をヤニスは:ハル≪望み≫と呼んでいた。夜を思わせる黒色の瞳に見つめられると心臓が耳の中で響くようだった。
「ずっと来なかったら夏になってしまう」
多くは望まない、とヤニスは誓った。ただもう一度ハルの体温を感じたいだけだ。冬の寒さを優しく溶かすようなぬくもりで中から外まで温めて欲しかった。
ただ、それだけ。永遠でなくて良い。夏が来るまで、それだけで良いから。
「待たせたな、会いたかった」
逞しい腕が幼さの残る体を包み込んだ。
それと同時に、ヤニスは理解した。
ハルが来たのだと。
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