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12『加賀谷君と僕の恋物語、序章 』
何時ものように気のない返事をしながら残り数時間のバイトをしている。
淡々とバーコードにスキャナーを通し、レジ台に置かれた弁当を手にしながら毎度おなじみの言葉をお客に投げる。
「温めーどうなさいます?」
このバイトも飽きてきたから潮時だと思ってた時、突然現れたその人のせいでまだ続けてる。
やる気のない質問にお客は返事を返してくれない。面倒くさいな、そう思い視線を上げた瞬間心臓が口から飛び出るほど驚いた。そこにはいつもの時間じゃないのにその人が立っていたからだ。
「あの」
低く落ち着いた声が聞こえに我に返り目を丸くしていると「温めお願いします」と言われた。
「失礼しました」
この時初めて声を聞いた。今まで以上にバクバクと心臓が音を立てて暴れている。
「あーあと、フランクフルト一つ」
僕はもう目が回りそうなほど思考がクルクルと回ってしまった。
あの口でフランクフルトを、フランク、フルト。
(ハッ!)
煩悩を捨てるように首を大きく横に振りながらフランクフルトを袋に詰め渡した。
その人は袋を手にコンビニを後にした。
ボーッと見つめる外には桜の花びらが舞い散っている。
その人はその桜の花びらを肩に乗せ去って行ってしまった。
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