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【5】
「うあぁ……っ!」
何の前触れもなく、ふと目覚めると体の熱さに声をあげる。
白いシーツに横たえられたまま、俺は全裸で体を丸めるようにしていた。
何も身に着けていない下半身が、まるで自分のモノではないように激しく痙攣している。
ハッキリとし始めた意識を上書きするように快感が脳内に一気に流れ込み、思考すらままならない。
このままでは気が狂う――そう思った。
ぼんやりとした記憶の中で思い出せるのは、プレゼンが終わった直後、俺の中に仕込まれていた玩具の激しい震動がそれまで抑え込んでいた理性を木っ端微塵に砕き、イキながら気を失ったこと。
それからどこくらいの時間が経っているのかも分からない。ただ言えることは、未だにローターは俺の中で振動し、体に蓄積された快感は出口を塞がれていることで灼熱の熱の渦となって俺に襲いかかっている。
こんな状態が長引けば俺の精神はきっとイカれる。
「はや…く!助け…てっ」
とてつもない恐怖と、自分ではどうにも出来ない熱を持て余し声をあげる。
うつ伏せになり、尻を高くあげたまま腰を振りまくる――まるで獣だ。
熱い息と漏れ出てしまう声を抑えることが出来ずに、開いたままの唇からは唾液が流れ落ちる。
「お願い…イかせて…っ」
懇願するも、冷たい視線を投げかけたままベッドに腰掛けている鳴海拓未の姿を振り返る。
彼の存在には気づいていた。だが、何度叫んだところで彼の手は差し伸べられることはなく、これは気楽の末に見せられた幻覚だと思っていた。
下半身丸出しの状態で、彼に尻を向けたままのアラレのない姿を晒している俺にはもう、羞恥という言葉すら浮かばなかった。
「プレゼンは成功だ。しかし――本当のお前はどっちなんだ?」
妙に落ち着いた彼の声に、無性に怒りがこみ上げてくる。
そもそも、どうして俺が今目に遭わなければならない?
俺は拓未とは何の関係もないはずだ。もしも、これが彼の嫉妬だというのであれば、お門違いもいいところだ。
恋人でもない男に束縛される理由はどこにもない。
「俺……だよ!拓未…。お、お願いっ」
「俺が知っている碧は、そんな地味な男ではないぞ」
俺は先程から視界を妨げている眼鏡をはずして投げ捨てると、きっちり固めた髪をグシャグシャとかきなぐった。
もう何が何だか分からない。着ている洋服でさえ煩わしくて仕方がない。
徐々に――そして確実に追い詰められ、気が狂いそうな感覚に自分の意志さえも消えそうになていた。
「俺……だからっ!早く…っ……これ…ぬ、抜いて!」
収縮を繰り返す蕾にぎっちりと埋められたプラグが痙攣でわずかに動いている。その動きでさえも敏感になった体は確実に拾い上げてしまう。
拓未は目を細めて上着を脱ぐと、シュルっと音を立ててネクタイを引き抜いた。
少しの期待を込めた目で肩越しに首を向けると、彼の手が俺の臀部にかかり、もう片方の手でガッツリ食い締めていたプラグを一気に引き抜いた。
「ひゃぁぁぁ……っ!!」
その衝撃で背中が反り返り、頭が真っ白になる。
もう息も出来ない。過呼吸を繰り返しながら、拓未に懇願する。
「あ……もう、死ぬ……イ、イかせて……お、ねがい…っ」
「見事に拡張されて中が丸見えだぞ。ヒクヒクと赤い粘膜が動いている。一体誰を誘ってるんだ?」
「拓未……拓未…っ」
「俺か?その割には違う男を咥えたんだろ?」
「許して…!も…しないから…っ」
「じゃあ、自分でローターを出せよ。奥で咥えこんでるやつ。そうじゃなきゃ俺はお前に入れることは出来ないぞ」
俺は無我夢中でぽっかりと空いた蕾に指を突っ込んだ。ぐっと下腹に力を入れていきんでみるが、ローターは出てこない。
完全に勃起し、根元を戒められているペニスが被せられたコンドームの中でダラダラと白濁交じりの蜜を垂れ流している。
「あぅ……。あっ、あ……無理っ……また、イ、イクっ!」
今は中に差し込んだ自分の指でさえ刺激物になる。
ローターを探るべく少し奥に入れた瞬間にまたドライでイッてしまった。
内腿が震えたまま止まらない。
奥歯もガチガチと噛み合わなくなっている。
「――ったく、しょうがないやつだな。ほら…っ」
拓未の指が奥にある玩具を挟んで出口まで誘う。中で彼の指が動くたびに背筋に電流のような痺れが走り抜け、俺のペニスがはしたなくビクンと跳ねた。
「ああ……っ、前っ……解いて!……死にそうっ」
拓未は濡れそぼった玩具を取り出すと、やんわりと俺のペニスを撫でた。
コンドームの中には相当な量の蜜が溜まっている。
「こんなに興奮しながらプレゼンしてたなんて、なんて淫乱なヤツだ。とりあえず出すか?」
「う…うん!うん、出すっ」
張子の虎のように何度も首を縦に振りながら、俺は腰を揺らして強請った。
これが俺の本性か――と、自分でも見たことのない一面を目の当たりにして、もう二度とこの男には逆らうことは出来ないな…と覚悟した。
彼はコンドームを外し、ぎっちりと根元を締め上げている紐をほどいた。
「あっ、あぁ…あぁぁ…うわぁぁぁっ!」
灼熱の塊がじわじわと尿道を上がってくる感覚に背を反らせる。
それは突然一気に押し寄せた。
「ひぃぃぃっ!!」
最初は先端から溢れ出るように、そして突破口を見出したそれは勢いよく飛び出した。白いシーツに迸る白濁は止まることを知らないほど吐き出されている。
「うぅ……ううっ……ひやぁっ!」
我慢に我慢を重ねていたものがすべて吐き出されるまでには長い時間を要した。
全身を激しく痙攣させたまま俺は意識を飛ばした。
青臭い匂いとひんやりとした感覚に目を開けると、俺は白濁にまみれたままベッドにうつ伏せていた。
「気を失うほど出すなんて……。相当気持ちが良かったとみえる」
まだ射精の余韻に疼く下肢に手を伸ばしてゆっくりと擦りあげる。あれだけ我慢させられていればペニスの感覚もおかしくなってくる。何度扱いても断続的に続く快感に、俺は声をあげた。
「はぁ……んんっ」
「――まだ、足りないのか?」
拓未の声が遠くで聞こえた瞬間、背中にずっしりと重みがかかり、今度は耳元では低い甘い声が響いた。
「俺にどうしてほしい?」
プラグを入れられていた蕾はすっかり開いているらしくひんやりとした空気が内部にまで入ってくる。
そこを早く塞いで欲しくて、俺は掠れた声で言った。
「拓未……い…入れて…っ」
わずかに腰を浮かせると、すでに下着も脱ぎ捨てた拓未のモノが潤んだ蕾に押し付けられる。
完全に勃起したそれは、あの夜を思い出すにはそう時間がかからないほど熱かった。
この灼熱の楔でかき乱して欲しい……。俺の中を拓未で満たして欲しい……。
決して口には出さないが、俺はシーツを引き寄せてギュッと握りしめた。それを合図に、俺の中に長大なモノがゆっくりと侵入を開始する。
「っく!…あぁ……んっ!」
「入口はだいぶ広がっているが、中はトロトロで――く…っ、まだ喰い締める気か?」
彼のすべてが俺の中に収まり、ゆっくりと腰を動かし始めた拓未は眉を寄せて、熱い息を吐いた。
最奥で彼の形がハッキリと分かるほど締め付けているのを感じ、なぜか安心感を覚えている自分がいることに気付く。他の男に抱かれてもなお、俺を求めてくれる拓未の熱が蠢動する粘膜を通して感じ取れた。
「もっと……奥っ…突いて!」
「ここか…?それとも……ここか?」
ねじ込むように腰を回転させながら挿送を繰り返す彼の息が次第に上がり始めた。
俺の腰を掴む手にも力が入っている。
「あぁんっ……いいっ!そこ……もっと、もっとぉ~っ!」
俺は自らのペニスを激しく上下に擦り、彼の動きに合わせて腰を浮かせる。
膝をついた状態で後ろから責め立てられる快感は、もう他の何物にも代えられないほどの気持ちよさだ。
「碧……もう、お前は……俺のものだ!誰にも……誰にも触れさせないっ」
鼓膜に響く声にドキリとして、同時に彼のモノを喰い締める。
「キツイ…!それが……お前の、返事か?」
「あぁ……いいっ。拓未の硬いの……好きぃ~」
「×××だけじゃなくて、俺の全部を好きになってもらわないとな!行くぞ――――っぐぅ!」
「あ、あぁぁぁ!また…くる…イ、イク…イッちゃう!きゃぁぁぁっ!」
一気に最奥を突かれ、腰を振りながら白濁を迸らせる。
同時に灼熱の迸りを内壁に叩きつけられ、ぐにゃりと腰が崩れた。
「も……ゆ、許して……っ」
「まだ駄目だ。この中を俺のモノで満たして、お前を孕ませるまでは離さないからな……」
初めて出会った夜――自分の蕾から拓未の吐き出した白濁がコポリと音を立てて溢れ出すのを思い出して、思わず身悶える。
あの夜からもう俺は捕らえられていたのかもしれない。自由だと思っていたのは自分だけで、見えない鎖に繋がれたままバカな真似を繰り返していた。
とんだ道化だ。拓未にはすべてお見通しだった……というわけか。
「愛している……碧」
優しい声色が耳をくすぐる。その心地よさにそっと目を閉じた時、再び中で質量を増していく彼のモノを感じて喉の奥で小さく叫んだ。
「冗談……だろっ!」
「やっと俺のモノになった恋人をそう簡単に離すわけがないだろ?この淫乱な体を俺仕様に調教してやる…」
「なっ…!バカなこと言うなっ。俺はも……限界だって……あぁぁぁぁん!」
急に動き始めた拓未に引きずられるように、俺もまた一度は這い上がったはずの快楽の沼に再び身を投じてしまったのは言うまでもなかった。
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