9 / 13

第9話 特等席

香野の肩越しに窓を見上げれば、薄いカーテン越しに、明るい日が注ぐ ……そういえば、まだ午前中だった… 小鳥遊は、一瞬反省したけれど、自分の首筋を伝う香野の唇の感触に、そのすべてを放棄した。 今は、香野の熱を全部もらうことが重要だ。 今日こそ、今回こそ、入れてもらいたい。ずっとずっと、そうしたいと思ってきた。でも、いつも自分の臆病さのせいで、先延ばしにされてきた。 きっと、香野も今日は遠慮しないだろう。頼むから押し切ってくれと思いながら、小鳥遊は、香野の肩に咬みつく。 香野は、夢中で小鳥遊の肌を味わっていた。 今日こそ、逃がさないと決めていた。 あんな、悲しいことがあるだろうか。きっと、もっと色々あったのだろう。そして、それは誰にも言えないような事だ。そこで、決定的に傷ついたに違いない。 香野は、とことん優しくしつこく小鳥遊の体をいじって、何も考えられなくしてしまおうと思っている。 どこにも力が入らないくらいになったら、きっと最後までできる。 好きだ、必要だ、傍にいたい、いてほしい。誰よりも、何よりも、お前を安心させるから。だから、今は何も考えないで、気持ちがいいと喘いでほしい。 香野は、小鳥遊の首から伝い降りて鎖骨を舐めて、小さな胸の先をゆるく吸い上げる。びくりと小鳥遊の体が跳ねて、その手が香野の背中を撫でる。つつと舐めれば、力の入る指が香野の背中や肩にとりすがり、唇は、空気と香野を求めて小さく喘ぐ。 脇腹や腰骨を舐めては、ゆるく咬む。よじれる体と漏れる吐息が、小鳥遊の体の中の熱を伝えてくる。香野の手で、唇で、小鳥遊が甘く熱く溶けていく。 もう一度胸の先を吸うと、小さな声が聞こえて、香野の髪を小鳥遊がくしゃくしゃとまぜる。どんな顔をしてくれているのかと、体を起こして上から見下ろした。 半分しか開いていない目の先で、まつげが震えて、唇が赤く光っている。 両手の指先で胸の先をはさんでこすり合わせると、きゅっと眉根が寄せられて、喉の奥からくぐもった声がこぼれてくる。 「んんん、ん、ん、あっ、んっ、ゆ、うや、そこ、ばっかり、は、あっ……やっっ」 「や、じゃないでしょ」 わざと耳元でささやくと、香野は小鳥遊の耳たぶをちゅっと吸って、頬に、唇にキスを落としていった。 上半身ばかり、あちこちいじられた小鳥遊は、熱の塊をどうにかしたくてたまらない。腰がよじれるたびに、ふるりとゆれる中心は、もう滴で濡れている。 香野は、その中心に、ローションを塗り付ける。 とろりとしたローションと先端の滴を手の平で混ぜて、中心に擦り付けながら撫であげる。小鳥遊が、びくびくと体をゆらしながら、片手で何かを探っている。 「晴希?何か、いる?」 「ゆう、や、俺も、触る、さわり、たい」 小鳥遊は、涙目で手を伸ばす。香野は、体の位置をすこしずらしてみた。すると、小鳥遊の手が膝から腿を撫で上げて、香野の中心を握り込んだ。 「…んん…まだ、ゴムしてないから」 「我慢、したら、いいんじゃねーの?」 「そういう事言ってると、いじめちゃうよ?」 香野は、小鳥遊の胸をつまんで、中心と一緒に弄り始めた。 「んんんっ…ま、待って、ゆう、待って…」 「どした?晴希」 「だから、それ、や…っ」 「なんで?いいでしょ?ほら、こっちもいっぱい濡れてるのに」 「……っだからっ、も、そこ、変に、なるからっ…んんんんっ」 香野は、一瞬動きを止めて、それから上体を倒して胸の先に吸い付いた。舌で転がして吸いながら、中心をせっせと扱いた。 「んんんうんんん…」 嫌だというように首を左右にふりながら、小鳥遊の中心は硬さをまして、びくびくと動く。 そこを追い上げるように、わざといいところを狙って捻るように攻める。 「や、や、や、あっ、ゆう、あああっ」 顔を隠すように背中を丸める小鳥遊に、体を寄せてやりながら、香野はその手に小鳥遊の熱を受けとめる。 「いいだろ?もっと、よくなる」 耳元でそう囁いて耳朶を咬めば、荒い息を吐く小鳥遊の体は、びくびくとはねる。 「も、っと?」 「そうだよ。もっと。これからだよ」 涙目をぼんやりさせて、濡れた唇が小さく動いている。その口から、もっともっと声をあげさせたい。 嫌なことなんか、全部吹き飛んでしまうように、我を忘れるように。 香野は、それぞれにゴムをつけてから、改めてたっぷりとローションを垂らした。 くったりと横たわった小鳥遊は、足を開いても逆らわない。 香野も、「いいか」とは聞かない。 内腿を、ゆったりと撫でて、少しずつ距離をつめる。ひくつく入り口を丁寧に撫でて、刺激に慣れた頃を見計らって、指を入れた。 「んんんっ…」 「こっから、だから」 「ん。いっぱい、触って」 こういう時、子どものような幼い物言いに、なぜかひどく興奮する。それはきっと、理性が飛んで言葉を選べなくなっているからだろう。自分の手が、小鳥遊の理性を飛ばしていると、わかるからだろう。 「痛かったら、言って」 香野は、足を抱え上げて、奥まで差し込んだ指を、ぐにぐにと動かす。ぐるりと内壁を押し広げるように回す。音が、響く。 その音が、二人をさらに煽る。 増やした指で、中を押し広げる。はくっはくっと小鳥遊の浅い呼吸が聞こえる。見れば、両手で枕を掴んで、赤い顔をしている。 「晴希、ここ?」 やっぱり、小鳥遊は首を左右に振る。そのくせ、中はきゅうと締まって香野の指を奥へ誘う。 「ん、ん、な、ゆう、や、も、入れて…」 お願いだからと、小鳥遊の唇が動く。 「もう少しだけ…」 香野は、指を三本に増やして、入り口を大きく撫でる。ゆっくりと出し入れすれば、膝が高く上がって足先がびくりと跳ねる。 「そ、それ、や、やだ、もっと、奥…」 いい所に届かないのがもどかしいのか、指の出入りにあわせて腰がゆれる。まだまだいじっていたいような気もするけれど、香野もそろそろ、自分をなんとかしてやりたい。 ずるっと指を抜くと、小鳥遊の膝裏に手をかけて、大きく足を開いた。今まで指を飲み込んでいた入り口は、ひくひくと小さく震えながら閉じようとする。きっと中は、不規則に蠢いて香野を待っている。 開かれた内腿に強く唇を押し当ててから、自身をゆっくりと押し込んでいった。 「んっ、……ん、ん、ふっあっ……、はっあっ……」 「合わせて、息、吐いて」 香野の動きに合わせて、小鳥遊は、浅い呼吸を繰り返す。じわじわと進んだ香野は、じきに奥までたどりついた。 「……ん、ああっ、っつ……なに、これ、すげー」 「ゆ、うや……」 「はる、き、すげーきもち、いい、うそ、みたい……」 香野は、小鳥遊の腰を掴んで小さく揺すってみた。 「痛くない?」 「うん」 「少しずつな」 香野は、小鳥遊の頬を優しく撫でる。小鳥遊は、ふーっと息を吐いて体の力をぬいた。 きちきちだった中が少し緩んできたのを頃合いと、香野はかき回すように、ゆっくり大きく動いた。 「ゆう……、キス……て……」 小鳥遊の腕が、香野の両腕を掴んで引き寄せようとする。香野は、小鳥遊の体を深く折り畳むようにして、唇を合わせた。 無理な姿勢でのキスは、そう長くは続けられない。離れては触れ、また離れては触れての繰り返しだ。時々香野が、鼻の頭や顎にキスをして、小鳥遊の緊張をほぐそうとする。そして、その度に深く押し込まれる香野の熱さが、小鳥遊を常識から自由にしてくれる。 自分は、役に立たなかった男だけれど、誰かを好きになってもいい。好きな人も、自分を好きだと言ってくれた。好きな人は、心も体も丸ごと全部欲しいと言ってくれる。 その気持ちを、全部受け取ってもいいと言ってくれる。 小鳥遊は、自分の中を満たす香野と気持ちを満たす香野の、その全部を受け止めていることが幸せでならない。 その気持ちが伝わればいいのにと、香野の頬を両手で包んで深くキスをした。舌を伸ばして、香野の中を精一杯撫でた。 「ん、ふっ…んんっ、なぁ、晴希、もうちょっと、動いても、いい?」 荒い息を吐きながら、香野が必死な顔をして聞いている。 「もう、きっと、大丈夫、ゆっくり、してくれてる、から…ああっ!」 答えの最後に重なるように、香野が大きく抜き差しした。思わず声が出て、応えるように体がはねる。 自分の上にいる香野が、眉根を寄せて、汗を散らして、動いている。聞いたことのないような音が、響いている。自分の中に響く振動が、頭のてっぺんまで突き抜けていくようで、もう、動く体が止められない。香野の背中に手を押し当てて、爪をたてないだけで精一杯だ。 ……あ、あ、晴希の、腰が揺れて、エロい、喘いで、よがって、濡れて……。 香野は、小鳥遊の中が何度も収縮するのを、感じていた。そのたびに、脚がつっぱったり、手指に力がはいったりしていた。そろそろ、終わりを迎える。 「晴希……?」 「んん」 返事はできなくて、なんとか目を合わせて頷いた。 それから小鳥遊は、香野の体に抱きついて、置いていかれないように懸命に体を揺らした。 もう、何が何だかわからない。本当は、香野が満足できるように、また自分に手を伸ばしたくなるように、何かできることがあったかもしれないのに。 そんな手練手管は、持ち合わせていない。 ただ、必死で縋りついて正直によがってみせることしかできなかった。 「晴希……」 脱力して、荒い息を吐く小鳥遊に、香野は小さく囁いた。 ゆっくりと声のする方に、小鳥遊の顔が向く。 何?と、目が言っている。 「どっか、痛いとこない?辛いとことか」 小鳥遊は、目に笑みを浮かべて、首を左右に振った。 確認をした香野は、ほっと溜め息をついて、小鳥遊の頬を撫でた。 「良かった。俺ばっかり気持ちいいんじゃ、違うから。晴希、好き。すっごい、好き」 香野は、小鳥遊の額や頬にキスをしながら呟いた。 「ゆう、や……」 小鳥遊の唇が、小さく動く。何を言ってくれるのかと、香野は顔を寄せた。 「ん?我慢しないで、何でも言って?」 「うん。あの……どう、だったかなと、思って……」 「むちゃくちゃ良かった。可愛くてエロくて気持ちよくて、最高」 ぼわんと赤くなった小鳥遊は、困ったように眉根をよせて、目を逸らす。 「どした?」 「……恥ずかしい、だけだよっ」 「自分で聞いたくせに、可愛いんだから。なんなら、このままもう一回やってもいいんだけど」 香野は、するりと腰を撫で下ろして、まだ濡れている入口をゆるゆると撫でる。 「……あ、の、ちょっと待って……」 小鳥遊は、反応してしまう体が恥ずかしい。なのに、触ってもらえることが、やけに嬉しい。 自分に、少しでも満足してもらえていたのなら、なお嬉しい。 「ほんとに、俺、で、いい?」 「晴希がいい。幼馴染の晴希とつながってるけど、でも、目の前の晴希は、新しく知った晴希だろ?口が悪くて、しっかりしてて、優しくて、えっちの時には可愛いなんて、最強だろ?俺、メロメロなんだよ?なぁ、信じてよ。俺に愛されてるって、安心していいんだ」 「俺は、勇也に愛されてる……」 「そう。一緒に飯食うのも、手ぇ繋ぐのも、こんなとこ撫でたいのも、晴希だけ」 「俺は、このままで、お前を好きでいていい?」 「いいよ。ずっと好きでいて。もっと、俺を欲しがって。必ず傍にいるから」 そう言って、香野は小鳥遊の腰をぐっと抱き寄せた。わざと、中心同士が重なるように。 予想通り、小鳥遊は顔を赤くして、押しとどめるように香野の肩に置いた手を、握ったり開いたりしている。 「な?俺は、晴希が、もっともっと欲しい」 「だって、さっきしたばっかりだし、それに……そんな……」夢、みたいじゃないか。 「晴希、話したくないことは、話さなくていい。でも俺は、目の前にいる晴希が可愛いのは、知ってる」 言葉にならず、小鳥遊は頷くばかりだ。 「抱きしめたくて、キスもしたくて、奥まで入れたい。なぁ、俺を、好きだろ?」 甘く見つめれば、小鳥遊の目は欲に濡れて潤んでいる。 ゆるゆると撫でまわしていた指を、くにゅっと中に押し込んでみる。 瞬間、息を呑んだ小鳥遊は、香野と目を合わせたまま、ふーっと細く息を吐いた。 そのまま、浅い呼吸を繰り返して、香野の指を飲み込んでいく。 「晴希ん中、すげー気持ちいいんだよ?」 「ん」 相づちを打ちながら、小鳥遊はじわじわと腰を動かして、二人の中心をこすり合わせる。 「晴希、なぁ、よく聞いて?俺が、こんなことしたいのは、同情じゃないんだ。俺が、晴希を好きで、全部欲しくて、晴希に欲情してるんだ」 香野の声は、届いているのだろうか。小鳥遊は、片足を香野の体に絡ませて腰をすり寄せている。 香野も、応えるように膝を差し入れて、腰をぴたりと合わせる。 「ほら、晴希が、可愛くて、こんなだよ。晴希も、俺が好きで、こんなになってくれてるんだろ?」 小鳥遊から、返事はない。ただ、唇をついばむように触れあわせて、とろりと潤んだ目に香野への好意を乗せて送ってくる。 香野は、指で奥を沢山弄って小鳥遊を翻弄した。小鳥遊は、互いの中心を包んで擦りあげて、手をべたべたにした。 最後に二人で熱を放って抱き合った。 お互いに、これからの二人がどうなっていくのか、まだわからない。 それでも、触れ合う体を隅々まで慈しんだことは間違いない。不安や恐れを小さくできたに、違いない。 今は、それで十分だった。 淋しかった小鳥遊晴希は、香野勇也の心の中心に、専用特等席を作ってもらった。

ともだちにシェアしよう!