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第5話・堀川
『今日の関東地方は上空に猛烈な寒気が入り込み、夕方頃から雪が降るでしょう』
街頭ビジョンがそんな天気予報を告げていた。それを横目に、俺と三上はケーキ屋へと向かう。
「マジか」
「だから寒いのな。うー、さっみぃ」
「ホワイトクリスマスとか、ロマンチック。ウフフ」
「キモゴリラ。つかマフラーもコートもなくて、寒くねーのかよ」
「筋肉あるしな! 全然ヨユー」
「筋肉ゴリラめ」
「で、どれにする?」
「あー、やっぱ定番?」
「イチゴの? うお、見ろよこれスゲー、ハート型だ! しかもピンクのクリーム!」
「へー。色んなのあるんだな」
「ねえ三上くぅん、このハートのにしちゃうー?」
「キッモ」
「ひどーい! ゴリ美の心は繊細なんだからねー?」
「ハイハイ。あ、すみません、この五番のこれ、お願いします」
「え、え、マジで? ハートのヤツにするん?」
「他のはデカいじゃん。高いし」
三上はさっとお金を払って、サンタコスしたお姉さんからケーキを受け取ってくれた。
イチゴのちっちゃいのもあったけど、いいのかそれで!?
ハートのケーキとか、もう恋人同士のヤツじゃん。カップルが、「えー、可愛いすぎてフォーク入れられなーい」「じゃあ俺が食べさせてやるよ、はいあーん」ってやる専用のヤツじゃん。で、「あーもうハート欠けちゃったぁ」「俺のハートはずっと欠けないぜ……」「あーん素敵、抱いて!」って流れになるヤツじゃん!
これ、実質デートだよな?
クリスマスに二人でケーキ選んで家で食べるとか、お家デート以外の何物でもないよな!?
期待してもいいのか。このモテ男が、女子たちの告白を断り続けて、俺とクリスマスを二人きりで過ごしてくれるとか。ワンチャンあるだろ、これは。
いやいや、ねーだろ、冷静に考えて。
浮かれまくって変な妄想までしてしまう。さっきから言動がおかしくなってるから、三上に怪しまれる可能性がある。少し落ち着かなければ。下心は封印だ。
二回深呼吸したあと、スーパーで買い物した荷物を持って、先に歩き出した三上の後を追った。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
「あーいらっしゃい、三上くん。おばさんこれから仕事行くけど、ゆっくりしてってね」
「ありがとうございます」
「浩二、冷蔵庫にポテトサラダ作って入れておいたから。二人で食べて。お兄ちゃんは今日帰ってこないから、二人で食べちゃっていいからね」
「おー母ちゃんサンキュー!」
「洗濯物と、出掛けるなら戸締りもよろしくね」
「はいよー」
「じゃあね三上くん」
「行ってらっしゃい」
相手が女なら誰でも王子モードになるのか、三上はニコニコ笑顔で母ちゃんを見送った。
俺はさっさと玄関の鍵とチェーンも掛けて、リビングに向かった。チェーンを掛けるのは、あれだ。もし万が一ワンチャンがあった時、万が一家族の誰かが帰宅してきて見られたら困るからだ。
何度も家に呼んでいるから、三上は勝手知ったる様子で洗面所に向かい手洗いうがいし始めた。
俺はその間にケーキと飲み物を冷蔵庫にしまった。
なんか、すげぇドキドキしてる。柄にもなく緊張してる。
現在、三時。昼は終業式後に軽く食べただけだから、パーティーを始めるのは早くてもいい。お菓子も沢山買って来たし。
三上が帰るのは多分九時くらいで、六時くらいから夕飯食べるとするなら、五時に唐揚げ作り始めれば――。
「お、今から仕込むの?」
「あ?」
「見てていい?」
「え?」
「いや、マジで包丁使えんのかなって思って」
カウンターキッチンの向こうから、三上が覗き込んできた。さっき母ちゃんに向けた笑顔とは違う、いたずらっ子みたいな笑顔だ。可愛いの極み。はぁー尊い。
「使えるに決まってんだろぉ?」
「ふーん」
「まずはエプロンして、袖捲って、手を洗うだろ? で、ボウルとまな板と包丁を用意するだろー?」
「はよ」
「えー、次に調味料を用意しまぁす。醤油大さじ二、酒大さじ二、砂糖小さじ一、生姜とニンニクはすり下ろしまぁす」
「料理番組かよ。次は?」
「テッテレー! とーりーもーもーにーくー」
「ぶはっ、全然似てねー」
「モノマネ、結構自信あったんだけど。じゃ、お手本どーぞ。はい」
「とーりー……俺にやらせんなよ!」
「ふへへ、出だし似てた」
「マジ?」
「ウソ」
「んだよー。ほら、手止まってんぞ」
三上がクスクス笑ってる。可愛い。
これもう完全に恋人同士じゃね? 実質俺たち付き合ってね?
付き合って同棲でもしたら、毎日こんな感じなのかもしれない。
下拵えを終えるまで三上は笑いっぱなしだった。
ああ、この時間がずっと続けばいいのに。
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