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第6話・三上
「んじゃ、メリークリスマース!」
「カンパーイ」
「カンパーイ。ジュースだけど」
「あ。写真撮ろーぜ。俺の慰めパーティー。イェーイ」
「お、おう」
「ぶは、ゴリラ半目になった。もっかい。もちっと寄って」
「イケメンに撮れよー?」
「ちょ、堀川、押すなよ! あー今度は俺が変顔になったじゃん」
「どれどれ? え、ヤバ、イケメンが二人!」
「イケメンとゴリラの間違いだろ」
「美男と野獣的な?」
「そうそう。それな」
「それ、俺にも送っといてよ」
「ん。送った。じゃ、早速唐揚げいただきー」
「どうよどうよ?」
「はふっあふっ、あつっ」
「ヤケドすんなよー?」
「……」
「どうよ、揚げたて美味くね?」
「……」
「おい、いつまで噛んでんだよ。はよ感想くれ」
「……美味い」
「テンション! ひっく! いつも通りに作ったんだけどなぁ。どれどれ。――え、普通に美味くね?」
「……」
「無言で二個目! ほらぁ、美味いだろぉ? 素直に認めちまえって!」
「……美味い。ヤバい。ゴリラのポテンシャルの高さに驚いたわ」
「だろー! いっぱい食えよな!」
堀川の部屋の小さなテーブルの上には、所狭しと料理が並んでいる。メインはもちろん、堀川の愛情たっぷりお手製唐揚げ。あとは堀川のお母さんのポテサラと、スーパーで買ったオードブル。
部屋はそんなに広くなくて、座るのはいつもの定位置だ。俺がベッドに寄りかかれる場所で、堀川は扉側。テレビもあるけど、今はついていない。代わりに、堀川のノーパソが陽気なクリスマスソングメドレーを流していた。
熱々の唐揚げを口に入れて、意外とやるじゃんと褒めれば、堀川は幼い少年のように全身で笑った。
ああ好き。肉汁と一緒に想いが溢れそう。
そもそも堀川の、袖捲りエプロン姿からヤバかった。
同い年とは思えない、色気のある腕に目が釘付けになった。濃いめの腕毛。力を入れるとくっと浮き上がる筋と血管。最高。
それに、ワイシャツにエプロンとか、卑猥すぎるだろ。あんなん目に焼き付けるに決まってるし。
社会人になって同棲でもしたら、毎晩あんな感じで夕飯作ってくれるんじゃないかって妄想して、ニヤニヤが止まらなかった。
ただいまーって帰ると、キッチンにはワイシャツにエプロン姿の堀川がいて。「残業お疲れさん、今日は黎人の好物の唐揚げだよ。すぐできるから着替えてこいよ。あ、待って、ほら、お帰りのチューは?」とか言われちゃったりして! そんなん、いくらでもチューするよな。むしろ、喉乾いたからミルク飲ませてとか言いつつ、風呂入ってないからって抵抗する堀川のズボンを脱がせて、エプロンの中に頭突っ込んでフェラしたい。そんで、雄の香りがむわっと広がって、それだけでイっちゃった俺に興奮した堀川が、「もう我慢できない、メシの前にヤらせて」とか言っちゃったりして。で、シンクに手をついて、スーツ着たままバックでヤられるんだ。「待って、スーツ汚れちゃうからぁ……!」「クリーニング出せばいいだろ」「昨日もそう言って……ああっイっちゃうぅ!」みたいな。ああ、すげぇイイ。ヤバい、最高。
今はもう部屋着のジャージに着替えちゃったけど、もう少しあの姿でいて欲しかった……!
俺のための唐揚げはマジで美味いし、最高だ。包丁さばきっていうのか、俺は料理しないからよくわからないけど、手つきは危うさがなくてスムーズで、本当に作り慣れてるんだなって感じだった。レシピとか何も見てなかったし。
うちの学校、調理実習なくて本当によかった。あんなん見たら、女子どもが堀川に惚れちまう。ああ危なかった。
四個目の唐揚げに手を伸ばしたら、肉ばっかじゃなくてこっちも食えよと、色々と皿に盛られた。
違うんだよ。肉だから食べてんじゃねぇんだよ。
お前が作ってくれたヤツだから、だよ。なんて言えるわけないけど。
もちろん俺は、いつも通りにハイハイとやる気なく返事して、唐揚げを咀嚼する任務に戻る。味を、感触を、全てを記憶しておかなきゃだからな。
本当なら持ち帰って、記念に冷凍保存しておきたいくらいなんだから。
そして、唐揚げのあとに待つケーキが楽しみで仕方がない。勝手に顔がニヤけてしまう。
ショーケースの中で、ひときわ輝いていたあのハート型のケーキ。もうそれ以外、俺の目には入ってなかった。
まさか、堀川がそれにしようかって言ってくれるとは思わなかった。まあ、ウケ狙いで言ったんだろうけどな。だから、冗談だよって言われる前にさっさと注文した。
もうさ、ハート型のピンクのケーキとか、恋人同士のヤツだろ。「ねえねえ、ハートのどこから食べる? 先っぽ? それともこっちの丸いところ?」「俺はそれより、こっちを食べたいな。可愛いハートのお尻」「あん、エッチ。そこは、あ・と・で」的なヤツだろ!?
あー妄想が止まらないー!
それに、しれっとツーショットも撮れて、俺のテンションは上がりまくっている。しかも、二枚目を撮る時、堀川が俺の肩に腕を回してくれて、マジでドキドキした。心臓の音、聞こえてなかったよな?
今日は本当、最高の日だ。
あー、ずっとこうしていたいなぁ……。
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