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「晶!」
は、と目を開けた凌介は、知らない天井を見た。
山小屋のそれとは違う、木目の目立たない低い天井。
「気が付きましたか!」
男の声。
晶じゃない。
誰だ。
「あなたは……」
「助かってよかった」
凌介は、自分の寝ているベッドの横に立っている男に見覚えがあった。
「マスター。麓のカフェの」
次第に意識のはっきりしてくる凌介に、カフェのマスターは安心したように何度も何度も相槌をうった。
「午後から平地でもすごい雪が降りましてね。心配していました」
「私は、どうやってここへ? あの少年は?」
それには、怪訝な顔をするマスターだ。
「ドアが激しく叩かれましてね。何だろうと思って表を見ると、雪の中お客さんが倒れていなさったんですよ」
自力で下山されたんじゃないんですか? とマスターは言う。
「お客さんの他には、誰の姿もありませんでしたけど」
自力で下山。
とんでもない。
「私は、遭難しかけたんです」
凌介は、ぽつりぽつりと語った。
何とか山小屋にたどり着いて。そこにいた少年に、いろいろと助けてもらって。
……そして、夢のようなひとときを過ごした、とまでは告白しなかったが。
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