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「お客さん、もしかして雪童(ゆきわらし)に遇ったのかもしれませんねぇ」
「雪童?」
ここらの地域の言い伝えです、とマスターは笑った。
「こんな雪の日に立ち往生すると、目の前に現れるそうです。その人の好いた姿形で」
そして様々な幻を見せて、気に入った人間だけを助けるのだ。
あれが幻。
そんな馬鹿な。
温かなストーブ、薫り高いコーヒー。甘いチョコレートに、山小屋の木の匂い。
そして、晶。
晶のぬくもり。
あれが幻。
そんな馬鹿な。
我知らず、涙が一筋流れていた。
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