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5月・林間学校
「いや雨じゃん」
だるそうに呟く三上の視線の先。
強い雨が窓を叩きつける。道路脇の草木はこれでもかと言うくらいにしなっていた。
「…これで林間学校続けんの?」
─────高速道路を走り続けるバスの外は、嵐だった。
ホテルに着いた一行は予定が変更となり、外ではなく屋内でのカレー作りとなった。
各グループ二人づつ、具材調理のために準備室へ移動する。
「中でよかったな〜こんな雨の中で外に出たら死ぬよ」
「うん」
「てか青、雨大丈夫?」
「ん」
「大きい音苦手だったよね?」
「…」
青と三上は向かい合ってじゃがいもの皮を剥いている。
意外と器用な三上と違って不器用な青は、手元に集中するのが精一杯だ。話など聞いていない。
「あお?」
「………」
「青ちゃん???」
「………」
「あーーーおーー」
一点集中していた青。周りの声が聞こえるようになって顔を上げたのは、全てのじゃがいもを剥き終わってからだった。
「…航?」
「……ふん!」
腕をくみ、まともに青と顔を合わせようとしない。
三上はあからさまに拗ねていた。
……蔑ろにしすぎたか。
「…ごめん」
「うっ………いや!今回は俺許さない!いつもそうだからね!たまには俺も怒り続けるよ!」
たった今剥き終わったばかりのじゃがいも達を抱えて三上が立ち上がる。
「青もいい加減学習して!俺ばっか青のこと気にしてて、疲れちゃうよ」
そう言い残して、三上はじゃがいもと共に調理準備室から去ってしまった。
1人取り残された青は真っ白になっていた。
…やってしまった。
頭に浮かぶのは後悔の念ばかり。高校3年目にして初めて、三上を怒らせてしまった。今まで友達があまりいなかった青にとってこれが初めての喧嘩である。そのため、どうすればいいのかが分からない。
調理室まで追いかける?…でも三上は怒ってたから俺がいても邪魔なだけかな…
もう俺の事なんか気にかけたくもないかも…
負のスパイラルに陥る。考えたくないことまで考えてしまって、思わずフルフルと頭を降った。
とりあえず、外の空気を吸ってこよう。
そうすれば頭も冷えるはず。
青はすぐさま立ち上がり、パタパタと部屋を出ていった。
悪天候のせいで昼間なのに暗い廊下を歩く。
途中すれ違った部屋からは男女の楽しげな声が聞こえていた。空いてる扉から見た一瞬。瀬戸と進藤、そして瀬戸の彼女とその取り巻きが楽しそうに談笑していた。
彼女の腰に回る瀬戸の手を見て、仄暗い感情が生まれる。
三上への感情や気持ちがそれと混ざって、ぐちゃぐちゃになる。
青はここから逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
走ってメインポーチを抜ける。その先は、屋根だけがついたほぼ屋外のリラックススペース。たくさんの形のソファがある中、青は雨風に晒されていない1番真ん中のソファに座りこんだ。
膝を抱えて背もたれに身を投げる。
……今日はいい日じゃない。
自分の全部が嫌になる。
どうして自分はこうなんだろう、どうやったらもっと上手くやれるのか、気持ちが上手く伝えれない、コントロール出来ない…
目を瞑って、思考の世界へ沈んでいく。
雨の音も風の音も聞こえない。
ずっとこのままがいい、ずっと……
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