4 / 19

5月 林間学校2

──────────────────────────────────────── 「…ぉ、…あお、青」 「…ん、」 誰かに揺さぶられて、目を覚ました。 目線の先には、焦げ茶の天然パーマ。 何で、と口を動かす前にクチッとくしゃみが出た。 「あーもー…こんなとこで寝るから…」 瀬戸は脱いだジャージの上着を青に被せた。 ふわっと香る瀬戸の匂い。くそ良い香り。 「…ありがと」 鼻をすすりながらお礼を言う青に、瀬戸はため息を漏らした。 「カレー作りの時間とっくにすぎたよ?みんな今お風呂入ってる。青がいないから、俺らのグループは青の事探してたんだよ」 …まただ。また迷惑をかけてしまった。 今のところ迷惑かけてしかない。 「…大丈夫?」 自分の発言が青の何かを抉った事を悟った瀬戸は、優しく語り掛ける。 「うん」 そう返す青の表情は暗い。 「…そういえば、なんか三上も様子変だったけど。なんかあったの?」 「…」 瀬戸は敏いから、絶対わかってるくせに。 「…航を怒らせた」 瀬戸は驚くことなく、静かに続きを促した。 「航はいつも俺を気にかけてくれていたのに、俺は航に迷惑かけてばっかで」 「うん」 「怒らせて、でもどうしたらいいか分からなくて」 「ここにきた?」 「うん」 「…それなら青がやることはひとつ」 その言葉に青が顔を上げる。 瀬戸は続けた。 「ごめんなさい、て言えばいいんだよ」 単純明快な言葉に目を丸くする。 「…それだけでいいの?」 「三上はもう怒ってなかった。むしろ心配してたよ」 だから大丈夫、と青の背中を叩いた。 「…うん」 瀬戸に言われたから大丈夫。そんな気がした。 「お詫びにジュース買ってけばもうイチコロだよ」 「そうかな…そうする」 「よし、じゃあ行こっか。お腹すいたでしょ」 「うん」 ゆっくり歩く瀬戸の後ろをついていく。 途中で寄った自動販売機で、三上のジュースを買った。 温かいココア。青が知る限り三上はいつもこれを飲んでいた。 「…着いたよ」 瀬戸が食堂のドアを開けると。 「青!!!」 三上が青に思い切り抱きついた。 思わず固まる。 「ごめんね、俺がデリカシーない事言ったから…!本当はどんな青も大好きだから!!」 ごめんね、ごめんね、と三上は青を抱きしめながら連呼した。 「…三上」 見かねた瀬戸がそれを止める。 「青が言いたいことあるって」 瀬戸に促された青は、三上を見つめた。 そして一言。 「…ごめんなさい」 一筋の涙とともにココアを差し出した。 「…青ちゃん!!!!」 感極まった三上は、青を強く抱きしめ直した。 「青がそんなこと言うなんて…!しかも俺の好物まで!あの時怒って本当にごめんね、青は何も悪くないから」 だから泣かないで、と青の頬を拭う。 「いや、俺が悪いの。ごめんなさい」 「俺の方こそごめんね…!」 許された事で安心した青は、三上の背中に腕を回した。 強い抱擁を交わす2人…の傍で成り行きを見守っていた瀬戸と進藤。 「一件落着?よかったな」 「仲良く抱きしめあっちゃって…妬けるねぇ」 「…てか恋華怒ってたぞ、一緒に飯食う約束してたのに放置して青を探しに行ったから」 「ん〜まあ大丈夫でしょ」 「あいつ激情型だから気をつけろよ」 「わかってるって。心配ありがと」 「ん。…おい、2人とも。イチャついてないで飯食おうぜ」 進藤の声で現実に戻った三上と青。 「そういえば俺のせいで皆ご飯まだ…ごめんなさい」 「いいよ。見つかって何よりだしな」 ご飯の支度をしだした進藤と三上。 手伝おうとする瀬戸を、青は引き止めた。 「どうしたの?」 「…ありがとう、壮士」 頑張って精一杯の感謝の気持ちを伝える。 「ふふっ、どーいたしまして」 瀬戸は、青の頭を撫でて行った。 …なんでもスマートにこなしすぎ。 青は赤くなる頬を扇ぎながら4人の後について行った。 「「いただきまーす」」 他に誰もいない食堂で、4人でカレーを食べる。 「んま!!」 「おいしい」 「案外美味しくできるもんなんだな」 「三上でも美味しく作れるなんて、カレーの力はすごいね」 「おいこらどういう意味だよ壮士!」 4人での食事の雰囲気は、いつものお弁当とは少し違くて。 でも楽しいことに変わりはなかった。

ともだちにシェアしよう!