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5月 林間学校3
「まじでやんの?」
林間学校2日目。外は小雨。
今日の予定はグループで山登りである。
誰かのつぶやきに、青は深く共感した。
「雷でも落ちたらどうすんだ!」
「!?」
「って思ってたでしょ」
「…航」
昨日喧嘩した2人は、仲直りして今まで以上に仲良くなっていた。
「大丈夫だよ〜青は俺が守るからね!」
「…いらない」
「冷たい!そこも好き!!」
後ろから抱きしめてくる三上を放置する青。
進藤と瀬戸はまだ集合場所に来ていなかった。
「にしても、2人とも遅いな…」
他のグループはどんどん出発している。
「…探しに行く?」
「そうする?」
2人を探しに行こうとしたその時。
「ちょっといい?」
金髪のギャルに声をかけられた。
「…あれ?」
三上も同じ事を考えたらしい。
この子、瀬戸の彼女だ。
「えっと、どうかした?壮士ならまだ来てないけど」
「…瀬戸と進藤はウチらと行動するから。三上達は2人で先に行けって、伝言」
青と三上は顔を合わせる。
「いや…でもグループで行かないと」
「チッ…うるさいな。ウチと瀬戸は付き合ってんの。昨日だって一色に邪魔されたせいで一緒にご飯食べれなかったんだけど。空気読めよカス」
いきなり悪意をぶつけられた青は、思わず三上の腕をぎゅっと握った。
「…青が怖がってるから、やめて。2人で行けって本当に壮士達が言ってたんだね?」
「…そうだよ」
「わかった。…青、いこう」
「…うん」
2人はそのまま、登山コースへ入っていった。
「…青、大丈夫?」
「…うん」
「何あれさっきの。怖すぎじゃない?女子ってみんなああなの?」
三上は怒りながら歩を進める。
小雨だったが霧はかかってないし、道もちゃんとある。
「わっ!」
ただ、ぬかるみは酷いが。
「大丈夫!?もー…よく転ぶねぇ」
山に入って10分。青は既に4回も転んでいた。
「危ないねぇ…はい」
「え?」
「手」
差し出された三上の手に、素直に自分の手を乗せる。
それは青が立ち上がったあとも離されなかった。
「…ありがと、航」
「ふふ、いーえ」
そのまま手を繋いでゴールを目指す。
20分くらいのコースらしいので、ゴールはもうすぐだった。
「航、雨強くなってきた」
コースの半分を超えたところで、雨足が急速に激しくなってきた。霧も深くなってきている。
「小雨だと思って傘もってこなかったね…油断した」
「急ごう」
「そうだね…あ、ちょっと待って」
三上が青の手を離す。
そのまましゃがんで、解けた靴紐を結び直した。
その間も雨の強さは増すばかり。空もゴロゴロ鳴り始めた。
その時、霧の向こうに人影が見えた。
グループとはぐれた人かもしれない。1人だと危ないから、一緒に帰った方がいい。
青がそう声をかけようとした時。
「…え?」
その影がこちらへどんどん近づいてきて、思い切り青に体当たりした。
「っ!!!」
「青!?」
バランスを崩した青は、道を外れて山の斜面を転がるように落ちていった。
「青!!」
青が何者かに押された事に気づいた三上は後ろを振り向くが、そこにはもう誰もいなかった。
青が落ちた。
その事実は三上をパニックにさせるには十分だった。
ゴール地点まで行って応援を呼ぶべきだが、三上にはそれを考える余裕もなかった。
「青ー!!?」
呼びかけるが、返事はない。
三上は深呼吸をして、ゆっくりと斜面を降り始めた。
木に掴まりながら、1歩ずつ進んでいく。
しばらくすると、斜面の麓に横たわる人影を見つけた。
「青っ…!」
青を見つけた安堵で油断したその一瞬。
「ぅわっ!!」
ぬかるみで足を滑らせて、斜面を転がっていった。
「…ぁ、お」
目の前には目を瞑って動かない青がいた。
三上は手を伸ばそうとするが、腕が上がらなかった。
それに意識も朦朧としている。
首に生ぬるいモノが伝うのを感じた。
…頭打ったかな、
目の前の青の手を掴もうとして、そこで意識はブラックアウトした。
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