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5月 林間学校4

激しい雨の音で意識が覚醒した。 目に入ったのは、頭から血を流して倒れている三上。 「…航!」 慌てて三上に駆け寄る。 「航…航!!!」 反応がない。 青は周りを見渡す。斜面をおりたせいで、ここがどこかわからない。しかし、出発前に見た地図には、この辺りに多くの 民泊用ロッジがあった。 きっとこの近くにもあるはず。 雨風に晒されて、2人の体は冷えきっていた。 青は三上の腕を肩に回し、ゆっくりと立ち上がる。 「…っ、」 右足に鋭い痛みが走ったが、気付かないふりをした。 「…はぁ、はぁ…あった…!」 斜面に沿って歩いていると、霧の向こうに1件のロッジが見えた。 しかもあかりが灯っている。 誰かいるかもしれない。 青は三上を引きずりながら、何とか玄関まで辿り着いた。 必死に玄関のドアを叩く。 しばらくすると、鍵が開く音がした。 「何か…って、大丈夫!?」 出てきたのは大学生くらいの若い女の人。 「山から…落ちて、友達が血出てて…」 ただならぬ様子を察知したのか、女の人は中にいる友人に助けを求めた。 「もう喋らないで、大丈夫だから。…みんな!タオルと救急セット用意して!男子はこっち来て!」 中から出てきた男子3人によって、2人は部屋の中に引き入れられた。 リビングの真ん中に横たえられる。 三上はまだ、目を瞑ったままだった。 「航…航!」 「…大丈夫」 必死に呼びかける青の肩を優しく掴んだ。 「傷口は浅いから血は直ぐに止まる。気を失ってるのは軽い脳震盪ね」 「…なんで、」 「私達、医大のサークルなの」 「そっ…か」 「大丈夫。お友達は助けるから」 安心した青は、その場に倒れ込んだ。 近くにいた男の人が慌てて支える。 「あなたも相当冷えきってる。お風呂入った方がいい」 服なら貸してあげるから、と青を支える男の人が言った。 三上が心配だけれど、自分が倒れたら元も子もない。 青は好意に甘えて、お風呂を借りた。 熱いシャワーを浴びて、体を温める。 脱衣場に置いてあった、恐らくあの男の人のであろうジャージを借りた。 急いでリビングに戻ると、三上は女の人に手当されていた。 小さく受け答えもしている。 …目が覚めたんだ。 「…航!!」 三上の元へ急いで駆け寄る。 「…大丈夫!?」 「…ん、」 三上はゆっくりと笑って見せた。 「…っ!!」 思わず三上を抱きしめる。 周りが見ていたが、どうでもよかった。 「…しばらく安静ね、動かすのは危険だから」 「はい…ありがとうございます、本当に」 女の人は、既に学校へ連絡も入れておいてくれたらしい。 もうすぐ到着すると言っていた。 学校の先生達と救急隊が来るまで、青はずっと三上の冷たい手を握っていた。 「…青!」 バタバタと足音が聞こえる。 病院の待合室にいた青は、弾かれるように顔を上げた。その先には、急いで走ってくる瀬戸と進藤の姿があった。 「大丈夫!?コースから落ちたって…!三上は!?」 「…今、治療してもらってる」 「青は?」 「大丈夫。打撲だけで済んだ」 あの後、雨が止んで数時間後に救急隊がやって来て青と三上を病院へと連れていった。今の今まで1人で三上を待っていた青は、見知った顔に少し身体の力が抜けた。 瀬戸は青の足下に膝をついた。 「なんで2人で先に行ったの?4人でいれば、こんな事起きなかったかもしれないのに」 「え?」 「…え?」 確か、瀬戸の彼女が言っていた。 「彼女と行動するから、先に行ってて…って」 瞬間、瀬戸の顔から表情が消えた。 「それ…恋華が?」 「…うん」 瀬戸は答えを聞くなり立ち上がり、どこかへ行ってしまった。 残された進藤は、青の隣に座る。 「…壮士、どうしたの?」 「いや…今はほっといてやれ。それより…落ちた時のこと、聞いてもいいか?」 「うん」 たしかあの時、三上が靴紐を結ぶのを待っていて、そしたら影が見えて… 「…誰かに押された、かも」 進藤の表情が驚きに変わる。 「どうかした?」 「…いや、何でもない。…ついててやれなくてごめんな、よく頑張ったな」 頭を撫でられて、そのまま甘えて進藤の肩に頭を乗せる。 色んなことがありすぎて、疲れた。 青は頭を撫でる一定のリズムに微睡み、そのまま眠りの世界へ入っていった。

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