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7月

つい最近まで雨が降り続いて憂鬱だったのに、今はもう蝉が鳴いている。 7月。盛夏と言われる季節がやってきた。 「あっち〜〜〜」 窓枠に肘を置きながら団扇を仰ぐ三上。 青も、机に伏したまま動けなかった。 青は太陽アレルギーであるため、長袖のシャツを着ている。 軽度ではあるが、夏の太陽の威力は凄まじかった。 風が通らず、熱気が篭もる教室。 不意に、青の頬にひんやりとした冷感を感じた。 自然と眉間の皺がなくなる。 もっと冷感を求めようとして、それに頬をすりよせた。 「…ふ、」 頭上から笑い声が聞こえたと思ったら、瀬戸がいた。 青の頬に手を当てながら笑っている。 冷感の正体が瀬戸の手だと分かった瞬間、青は恥ずかしくなってそっぽを向いてしまった。 「あぁごめんね、可愛くて」 怒らないで、と瀬戸は優しく首筋を撫でた。 「…可愛いって言うな」 恥ずかしくて振り払ってしまいたい。でも、首筋を伝う瀬戸の手が冷たくて、気持ちよくて、どうしても擦り寄ってしまいたくなる。 「そーだよ壮士、青ちゃんは可愛いって言われるの嫌いなんだよ」 「そういえば…2年の頃からそう言ってたけど、何で嫌いなの?」 「普通に考えてわかるだろ、可愛いって言われて喜ぶ男がいるかよ」 「それに、青ちゃんはどっちかっていうと綺麗系だしね〜」 進藤も青を援護しておきながら、頭を撫でてくる。 進藤の手は別に冷たくも何ともない。鬱陶しいだけ。 「…隼人の手は要らない」 「うっわひでぇ。壮士贔屓が過ぎるんだよ青は」 「だって手が冷たくないもん。…気持ちよくない」 「言ったな…このやろ!!」 「…ちょっ、やめて」 思い切り頭をぐしゃぐしゃ掻き回す進藤。 抵抗しようとしたが、暑さに負けて直ぐに力を抜いた。 「おい脱力すんなよ…」 やれやれ、とでも言いたげな様子で進藤は青の髪の毛を直した。 「そんなんで放課後まで持つか?青。お前プールの補習あるだろ」 「そうじゃん、大丈夫?青」 青は太陽アレルギーのため、日中はプールに入れない。 その代わり、放課後に1人で補習をする。 今日はその補習日であり、最終日でもあった。 「…折角だしさ、俺らも入らない?プール」 三上がぽつりと呟いた。 「どういう事だよ」 「いやだって、青いつも1人で放課後プール入ってて寂しいじゃん。俺ら青とプール入った事ないし、折角だから、ね」 少し必死さを感じる気がする。気のせいか。 「まあ俺はいいけど。壮士は?」 青の首筋をずっと撫でていた瀬戸が、困ったように笑う。 「うーん…今日は舞と帰る約束なんだ。ごめんね」 舞。雪原舞。名前負けしない可愛い顔に頭も良い。 瀬戸は先週から、雪原舞と付き合い始めた。 瀬戸曰く、好きじゃなくてもいいと言われたらしい。 でも学年一の美男美女で、皆からお似合いと言われている。 「そっか〜彼女は仕方ないか」 「うん、ごめんね。3人で楽しんで」 青の気持ちをわかっているかのように、優しく頭を撫でる瀬戸。 それがたまらなく嫌だった。 好きじゃなくても付き合うのかよ。俺が女だったら付き合ってくれてたのかよ。 溢れ出す暗い感情をかき消すように、青はぎゅっと目を瞑った。

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