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7月 プール
「おおー!めっちゃ夕焼け!」
「まじで夕焼けだな」
中身のない会話を後ろ手に、青はスタスタとプールサイドへ歩いていく。
ダメ元で三上達が体育教師に頼んだら、意外にもすんなり許可が降りた。それどころか「じゃあ俺職員室にいるから」と鍵まで渡される始末。
「…先生職員室行ったけど、監督者いなくて本当に大丈夫なのか?」
「まあまあ、先生いない方が気楽でいいじゃん…っ!」
準備運動もせずに、三上は助走をつけて水の中へ飛び込んだ。
大きな水しぶきを上げて、その体が水中へ沈み込む。
「…ぷはっ、きもちー!!」
数秒後、顔を出した三上は楽しそうに叫んだ。
それを見た進藤も、軽く準備運動をした後、勢いよくプールに飛び込む。
2人が激しく水を掛け合って遊ぶ姿を、青はプールサイドから眺めていた。
今までずっと1人でプールに入っていた青にとって、それは初めて見る景色。
高校に入って、初めて友達と呼べる人ができて、今こうしてプールに入っている。
…眩しい。
夕焼けが2人を照らす。
水はキラキラと輝いていた。
「青!何してんの、早く飛び込んで!」
その声にハッと我に返る。
視線の先には両腕を広げる三上がいた。
その声に答えるように、赤くなった顔を隠すように、青は思い切り三上の腕に飛び込んだ。
一瞬の浮遊感。その直後、冷たい水が全身を包み込んだ。
水泡を感じながら目をうっすらと開くと、そこはどこまでも透き通っていた。
夕日が差し込むその世界はゆらゆらと揺れていて、太陽に反射した水面の波の陰影が足元に広がっていた。
現実と切り離されたような空間に見とれていると、後ろから伸びた腕に上半身をホールドされ、そのまま水面に連れていかれる。
「…ぷはっ」
「青すごい飛んだね!俺らの頭上飛び越えてくからびっくりしたよ」
「お前幅跳びの才能あるわ」
三上に抱きつかれたまま、青は自分の頬に触れた。
…よし。
冷たくなった頬に、満足気に息を漏らす。
「…てか先生いないなら遊んでてもバレなくね?」
「確かに!10分間泳大変だしね、やらなくてもいいんじゃない?青」
「…うん」
クラスの授業では、10分間ひたすら泳ぎ続けるらしいが、青は補習でそんな事したことは無い。
いつもは平泳ぎを2往復して終わっていた。体育教師も何も言わない。
…黙っとこ。
「じゃあ誰がいちばん早いか競走しよ!」
「…あ、俺パス。見てる」
「えー青やんないの?…じゃあ隼人と一騎討ちだな」
「よし、俺に勝負挑んだこと後悔するなよ。俺中学の時県大会まで行ったことあるから」
「え、まじで?」
「ああ。…サッカーでな」
「関係ねーだろそれ!」
「…あ、よかった。まだいた」
聞き慣れた声がして、全員声の方を向く。
「あれ、壮士じゃん」
水着姿の瀬戸が、更衣室からぺたぺたと歩いてきた。
「彼女はいいのかよ」
「うん、まあね」
軽く準備運動をした瀬戸は、静かにプールに入る。
「俺達だけっていうのも楽しそうかなって」
「じゃあ壮士も入れよ。今から競争するんだ」
「…青は?」
「え?…やらないけど」
瀬戸は少し考えた後、笑顔で答えた。
「じゃあ俺も見学で。青と一緒に見てるね」
「結局隼人と2人か。…よし!青見ててね!!」
「…ん」
三上と進藤が競争を始めたのを見て、青と瀬戸はプールサイドに移動した。
「おぉ〜2人とも速いね」
競争する二人を見て笑う瀬戸。
青はそんな瀬戸を直視することが出来ず、ずっと三上たちを見ていた。
「…青?大丈夫?」
「え?…何が」
太陽から肌を防ぐためにラッシュガードを来て完全防備な青と違って、瀬戸は足首までの水着だけ。
触れてる腕が熱かった。
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