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7月 プール2

彼女はどうしたのかとか、一緒に帰らなくてもいいのかとか、言いたいことは沢山あった。 でも、瀬戸が今、青の隣にいる。 それだけで、青は十分だった。 「顔…赤くなってる」 「…夕日のせいじゃない、多分」 ベタな返答に、瀬戸はふ、と笑った。 「…こんなに真っ赤なのに?」 青が気づいた時には、瀬戸と目が合っていた。 「…えっ、え」 いつの間にか両頬に添えられた手に上を向かされて、瀬戸と視線が絡み合う。 からかうように笑っている瀬戸に、青は余計に顔が赤くなるのを感じた。 「…離して」 目を伏せながら呟く。 あくまで冷静なつもりだったが、瀬戸はくすくす笑いながら両手を離した。 「青は可愛いねぇ」 「可愛いって言うな」 顔は背けたが、瀬戸と距離は取らなかった。 それに気づいたのか、そうでないのか。 瀬戸は小さく笑うと、水の中。優しく手を掠めてきた。 「…っ」 ほんの少し。手が触れ合う程度。 お互い、何事もないように前だけを向く。 …多分、気づかないフリをしてる事に気づいてる。 青はそう思いながらも、その手を引くことは出来なかった。 瀬戸からも、手が離れることは無かった。 「…、あお!」 その声にハッとして上を向くと、三上が心配そうに青を見下ろしていた。 いつの間にか、競争は終わったらしかった。 「青、大丈夫?」 「…ん、ぼーっとしてただけ」 「えぇ!もしかして俺の事見てなかった!?」 せっかく頑張ったのに、と落ち込む後ろから進藤が揶揄う。 「お前勢い凄かったもんな、青にいい所見せたいが為に」 「そーゆーのは言わなくていいの!」 ギャーギャーと騒ぎ始めた2人を後目に、時計に目を向ける。 時刻は既に7時半。夕陽は完全に沈み、辺りは暗くなり始めていた。 「…クシュっ」 プールの温度も段々と丁度良い、から寒い、に変わってきた。 「青!寒い?」 「…大丈夫」 「長く浸かり過ぎたね、そろそろ上がろう」 「だな」 瀬戸の提案に乗って、青達はプールを出ることにした。 更衣室までタオルを体に巻いて帰る。三上が自分の分のタオルもくれたが、寒さがおさまらず、早々と着替えを済ませた。 「…くしゅっ」 「あぁ青ちゃんやっぱ寒いんじゃん、教室にカーディガンあるよね?」 「…ん」 「じゃあそれ回収してもう帰ろ」 動作の遅い青に代わって、三上が着替えを手伝い、荷物を纏める。 その間も青のくしゃみは止まらず、唇も真っ青になっていた。 見かねた進藤が口を出す。 「あー…俺達が体育の先生に報告行くから、航達は先に帰れよ」 「え…でも」 「いいから。早く帰って体調整えろ」 「…うん、ありがと」 進藤の言葉に甘えて、青と三上は早々と更衣室を去っていった。 残った進藤と瀬戸。 しばらく無言が続いた後、徐に進藤が口を開いた。 「今日楽しかったけど、お前大丈夫だったの?」 「…なんの事?」 「舞だよ。約束ドタキャンしたんだろ」 進藤の問に苦笑いで返す瀬戸。 「あー、多分大丈夫だよ。舞は恋華みたいなのじゃないし」 「どうかな。女の裏はえげつねえからな」 「それは言えてる」 テンポの良い会話から一拍置いて、進藤が切り出す。 「…うん…まぁ、俺はいいんだけど、この4人だとどうしても青にやっかみが集中しがちだろ?」 高校入学時から4人は注目されてきた。 2年生になって、4人で行動するようになってからは更に。 しかし、あまり他人と交流を持たず口数も少ない青は、剥き出しの悪意に晒されることが多かった。 何かされても、青は絶対に3人に助けを求めないからだ。 青の寡黙さを悪用しようとする人間を進藤達が何度ぶちのめした事か。 もちろん青はそれに気づいていないが。 「…そうだね」 瀬戸にも思い当たる節があるのか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。 「だからまぁ…率直に言うと、舞に恋華みたいな真似させるなよって事」 「率直か?それ…」 苦笑いしながら瀬戸が返す。 「でも舞は大丈夫だよ、青に手を出したら別れるって言ってある」 進藤は一瞬、驚きのあまり固まった。 「…何が大丈夫だよ、舞より青の方が大事ですって言ってるようなもんじゃねえか」 瀬戸はそれには答えず、無言でシャツを着た。 「…なぁ、壮士は青の事どう思ってんの?前から俺らと対応が全然違うのは分かってたけど、林間学校からそれが顕著になってる。お前の行動の中心が青になってんだよ」 「…」 「なぁ、なんで好きじゃないやつと付き合ってんの?条件に青まで出して…お前さ、ほんとは」 「進藤」 冷たい瞳が進藤を射る。 睨まれた訳では無いのに、進藤は体を動かすことが出来なかった。 「…それ以上言ったら、怒るよ」 静かに荷物を纏める。 振り返った瀬戸は、いつも通りの顔だった。 「俺と青は友達だよ。それ以上でもそれ以下でもない」 「壮士…」 「何?それより俺たちも早く帰ろう」 にっこりと笑った瀬戸に違和感を感じながらも、進藤は歩き出す瀬戸の後を追いかけた。

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