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9月
「…じゃあ帰る」
「わかった〜また明日〜」
三上に見送られて、青は教室を出た。
昇降口まで降りて、靴を履き替える。壁にもたれかかってスマホを弄っていたら、前方から小さい影がパタパタと走ってきた。
「青君!…遅れてごめん!」
「ん、いーよ。あんまり待ってない」
夏休み中に付き合い始めた咲と、今日は一緒に遊びに行く。
「楽しみだね!」
「…ん」
咲と付き合って1ヶ月が過ぎた。
季節は夏から秋に、変わろうとしている。
夏休みが開けてから、青は進藤と三上に咲の事を報告した。
2人とも、すごく驚いていたけど、青を応援すると言ってくれた。三上は泣いていた。
この1ヶ月、青と咲は色んな場所へ出かけていた。
放課後も、休日も、青は積極的に咲をデートへ誘った。
今日はクレープを食べに来た。
「…ここだ」
「わぁ…すごい種類あるよ!青君」
嬉しそうに小走りで店のショーウィンドウへ向かう咲を、ゆっくり後ろからついて行く。
「青君何食べる?」
「…いちごと練乳のカスタードアイス」
「…!?」
「に、追加でチョコソース」
「!!?」
「あとアーモンドチップも」
満足気に顔を上げた青は、そこで初めて咲がこちらを凝視していることに気づいた。
「…え、何」
…何か失敗したか、と青は逡巡する。
男が甘いもの好きなのは、女子から見たら駄目だったか…?
三上もココアが好きだし、瀬戸に至っては毎日いちごの飴をくれるけど…
「かっ…」
「…?」
「かわいいっ…!」
一瞬の間を開けて咲はそう叫んだ。
「青君あんまり甘いの好きじゃないかなって勝手に思ってた。だから今日も、クレープ屋さん誘って大丈夫だったかな〜って思ってたんだ」
恥ずかしそうにはにかむ姿を見て、思わず口を開く。
「甘いの、結構すき。壮士とか毎日飴くれる」
「瀬戸君が?意外」
青はいちごの練乳カスタードアイス、咲はシナモンを選び、ベンチに腰かけた。
「今日忙しかったのに、付き合ってくれてありがとう」
「…別に、大丈夫だよ」
「でも青君のクラス、飲食やるんでしょ?」
「うん。でも俺はウェイターだから、当日までやることない」
「そっか。見に行くね」
「うん。俺も咲の所行く」
明日は文化祭1日目。青と咲は、クラスの皆が放課後準備をしている所、抜けてきたのだ。
進藤達は快く送り出してくれた。
「…2日目のキャンプファイヤー、一緒に見る予定だけどさ、青君一緒に見たい相手とか、もしかしていたりした?」
戸惑いがちに質問される。
その問いに、青は心臓が跳ねた。
「…いないよ」
咄嗟に返した言葉に焦りの声色が混ざる。
「…そっか。私もいなかったよ」
嬉しそうな声に、目を合わせることが出来なかった。
家に帰ると、青は直ぐに自分の部屋に入った。
電気もつけず真っ暗の中、ドアの前に座り込む。
頭の中はグチャグチャで、整理がつかなかった。
スマホのバイブの音が鳴って画面を見ると、瀬戸からメッセージが届いていた。
『こっちは準備終わった。青はどうだった?』
「……っ!!」
無性に腹が立って、思わずスマホの電源を切った。
暫くスマホを見つめた後、そっと机に置いた。
なんで怒ってるのか自分でも分からない。
いろんな思いが混ざりあって、どうしようもないやるせなさが青を包む。
重力に抗わずに、崩れるようにベッドへ倒れ込んだ。
静かに目を閉じる。
1粒の筋がシーツに零れ落ちて、小さなシミを作った。
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