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9月・文化祭1日目

起きたのは昼過ぎだった。 慌てて起き上がると、制服姿の自分が目に入る。 「…あのまま寝ちゃった」 机の上のスマホには電源が入っていない。 「…目覚まし、鳴らなかった」 誰も聞いていないが一応懺悔をしておく。 学校はどう足掻いても遅刻。ならばゆっくりして行こう、と大きく伸びをした。 「…ふぅ」 シャワーを浴びた青は、髪を乾かさずにキッチンに入る。 今日のブランチは、サンドイッチだ。 いつもより多めにバターを塗った食パンに、これでもかという程苺と生クリームをのせる。 スピーカーから流れる音楽に耳を傾けながら、その場でサンドイッチにかぶりついた。 「…んま」 行儀が悪いとわかっていても、目の前の誘惑に耐えきれなかった。 ぱくぱくと食べ進め、ものの数分で完食する。 口の端についた生クリームもしっかりと舐めとった青は、満足気に顔を綻ばせた。 髪も乾いて、制服に着替え終わった頃には2時を超えていた。 文化祭1日目のクラスの仕事は2時半から。 …急ご。 学校までは歩いて15分。 青は小走りで駆けだした。 爆音で音楽が流れているのに、掻き消されるほどの喧騒。 文化祭特有の浮き足立ったざわつき。他校の生徒やOB、親などが入り交じって校内は混乱の極みだった。 「あー!青やっと来た!!!」 人混みをかき分けて自分の教室へ行くと、真っ先に三上が青を見つける。 「もー何で朝から来ないの!電話も出ないし!」 駆け寄ってきた三上は、ウェイターの格好をしていた。 「…航、かっこいいね」 一瞬間が空いた後、ガバッと青に抱きついた。 「っ!もう!いいけど!許しちゃうけど!!」 「航?」 「…遅く来てもいいけど電話には出てね、心配だから」 ぎゅうぎゅうと抱きしめながら青の耳元で囁いた。 「…ん、電源切ってたの忘れてた」 「じゃあもう切っちゃ駄目」 「わかった」 青を強く抱きしめる三上の頭に、背後から現れた銀のトレーが勢いよく直撃した。 「いっっ…!!!!」 「隼人」 「ドアの前でイチャつくな。後ろの女子が鼻血吹いて倒れたじゃねえか」 「…ごめん」 「青は悪くねえよ、早く着替えてこい」 投げるようにして渡されたウェイターの制服一式を持って、隣の教室に着替えに行った。 「ねえ、今から体育館でファッションショー始まるって!」 「じゃあ体育館行こ!」 ドア1枚挟んだ廊下から女子の声が聞こえてくる。 この高校はいわゆるマンモス校で、いろんな学科が存在している。 青たちが所属しているのは特進科だが、他に普通科、国際科、生活学科、デザイン科がある。 もうすぐデザイン科のファッションショーがスタートするらしい。 …瀬戸も、モデルとして出演すると聞いた。 そっちも気になるが、今は仕事に集中しなくては。 両頬を手で叩いて気合を入れた。 「…おまたせ」 着替え終わって自分の教室へ戻ると、ニヤニヤした進藤が近づいて来た。 「青いーじゃん、似合ってる」 「…そう?」 「うん、てかむしろやばいと思うよ。なんて言うか、色気…っむぐ」 進藤の口を手で塞いだ三上が、進藤の背後から顔を出す。 「青ちゃんめっちゃ似合ってるよ!かっこいい!」 「んーっ!んんん!」 「そうかな、」 「うん!青は何着ても似合うね!」 「んんん!!!んん!!!!!」 「…ありがと」 「じゃあ今から青は隼人と交代で入ることになるけど、俺はまだいるから安心して」 「ん」 「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛」 そろそろギブそうなので、背伸びをして三上の手を外してあげる。 「ぷはっ…はぁ…はぁ…さんきゅ、青」 「はい、隼人もモデルの依頼受けてるんでしょ、早く行かないと」 そう言いながら三上は進藤の体を教室の出口に向けさせる。 三上は笑顔のくせに、目が笑っていなかった。 俺は親切で教えてやろうとしたのに…とブツブツ言いながら進藤は体育館へ向かっていった。 「…さて、邪魔者はいなくなったし」 「え?」 「なんでもない!あと1時間だけだから頑張ろ」 「うん」 三上に銀のトレーを渡され、青はしっかりと頷いた。

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