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9月・文化祭1日目 2
「すいませーん」
「…っはい」
「あ、こっちもお願いしまーす!」
「…はい、」
3-Aの出し物、「苺と生クリームのカフェ」は大盛況である。
元々教室が広かったので半個室にしてテーブルを区切ったら、それが良いと客足が伸びた。
進藤と交代で入った青は最も混雑すると予想された3時頃、教室内を忙しなく動き回っていた。
段々仕事を覚えてきたが、入ってくる客の量が多すぎる息つく暇もなく働いている。
それに、記念撮影を青に頼んでくる客が多い。
嫌なら断っていいと昨日委員長が言っていたが、断ったらオーダーもせずに帰っていく客が出たので、なるべく答えるようにしていた。
しかし、2回に1回、そういう客が青を呼ぶのでオーダーをする客の元へ行けず困っていた。
静かにため息を吐きながら呼ばれた客のテーブルへ行く。
「…オーダーを伺います」
その席には大学生と見られる男が5人座っていた。
ニヤニヤしながら青のことを上から下まで舐めまわすように見る。
「えーめっちゃ可愛い子来たんだけど!」
「いや、男じゃね?」
「は!まじでー!?」
ギャハハ、と周りの迷惑も考えずに大声で騒ぐ集団。
周りも白けた目でそちらを見ていたが、半個室状態なため、気づいていなかった。
…どう見ても男だろうがくそ。
青は目を伏せながら、ご注文は、と繰り返す。
「そういえばここって撮影OKなんだよね、一緒に撮ってよ」
痛みきった金髪が徐に青の腰に手を回して引き寄せた。
「ちょっ…」
意図せずして金髪の膝の上に座らせられた青は、急いで立ち上がろうとするが金髪の腕が腰と肩に巻きついていて離れない。
「…っ離して、」
「こいつ腰ほっそ!マジで女みたい」
「女だったらお前セクハラだよ」
爆笑している金髪の仲間を見て、男でもセクハラだ、と心の中で悪態をつく。
ぐいぐいと腕を押しても、ますます締め付けられる。
青は助けを呼ぼうとして、三上の存在を探そうとした瞬間。
「…っっ!!!」
声も出ないくらいの嫌悪が身体を駆け巡った。
金髪の手が、服の中に侵入ってきたのだ。
他の客に見られないように、背中側のシャツをめくって冷たい手が青の肌に触れた。
緊張と焦りで固まってしまう青。
それをいいことに金髪の手は、背中から脇腹、腹に移動していく。
肋骨を1本ずつなぞられる感覚に、鼓動は早くなり、呼吸も浅くなる。
気持ち悪い、きもちわるい…!!
体が強ばって動けない青をいいことに、金髪は体の位置を変えて、青を半個室の中に押し込んだ。
青の視界から完全に他の客やウェイターが見えなくなる。
「…ぁ、」
思い切り三上の名前を叫ぼうとした時、
「青、ていうんだ、名前」
胸元のネームが剥ぎ取られていた。
「名前覚えたから。黙ってれば何もしないよ?はは」
耳元で囁かれ、恐怖と嫌悪が同時に襲う。
「お前ばっかずるいだろ、俺にも」
「お前らは後な、」
金髪は青を抱きしめ直すと、腰を擦り付けてきた。
「っ!!」
何かが青の臀に当たっている。
考えずとも分かるそれに、青の頬に涙が伝った。
「あ〜あ泣いちゃったじゃん」
「かわいそー」
微塵も思ってなさそうな声に体が震える。
震える手で腕を押したが、逆に抑えられてしまった。
…もう、無理
ぎゅっと目を瞑ったそのとき。
「──────青!!!!」
腰の動きが止まった。金髪も仲間も、そのまま動かない。
うっすら目を開けようとしたら、身体を引っ張られてそのまま腕にすっぽりと収まった。
…この腕を知っている。
安堵の涙が止まらなかった。
「…こぅ、」
「もう大丈夫だよ、大丈夫…」
三上の腕はしっかりと青を抱きしめた。
「…あと宜しく」
「…あ、ああ」
三上は後ろにいたクラスメイトに声をかけ、青と一緒に教室を出た。
向かったのは保健室。
扉は空いていたが、保険医はいなかった。
三上は1つのベッドに青を座らせ、仕切りを閉じた。
そして、静かに涙を流し続ける青を優しく抱きしめた。
「…ごめんね、気づくのが遅くて」
「…っ、…」
青は震えながらも三上の背中に腕を回した。
小さな力で、ぎゅっと抱きしめ返す。
力が入ってないのに、それでも強く抱きしめようとする青に三上は全身で応える。
「…どこ、触られた」
「…っ、腕…と、服の中、」
「…ちょっと触るよ、」
「…ん、」
三上は青の腕を取ると、優しくさすった。
何回も、何回も、丁寧に。
いつの間にか手の震えは治まっていた。
それを見た三上は、服の中に手を伸ばした。
「航…っ」
「…大丈夫、」
腹、脇腹、背中と三上の手が青の肌の上を這う。
緊張で固まっていたが、三上の手の温かさにほぐれる。
嫌悪感は無かった。
優しく背中を叩く三上に言い知れぬ安心感を抱いた青は、額を肩に擦り付けた。
「大丈夫、大丈夫だよ…青」
1日目終了のチャイムがなるまで、2人はそうしていた。
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