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文化祭2日目
三上のスマホのアラームで目が覚める。
むくりと起き上がった青は勝手にそれを止めて、再び三上の懐に潜り込んだ。
いつもと違う朝。いつもと違う布団。
青は三上の家に泊まっていた。
昨日文化祭が終わった後、合流した瀬戸と進藤に事の顛末を話した。2人とも凄く怒っていたが弱っている青の前では至って優しく努めていた。
そしてそのまま、三上の好意に甘えて青は三上の家に泊まったのだった。
三上の家はタワーマンションの一室。
両親とは別々に暮らしているため、三上のためだけの家。
アラームのせいで目が覚めてしまった青は、裸足のままぺたぺたと歩いて窓ガラスに手を触れた。
9月。昼は熱いが、朝はひんやりしている。
裸足の足が、少し冷たくなった。
「…ん、青…?」
隣に青がいないことに気づいたのか、三上も目を覚ます。
「…はよ」
「おはよ、青」
「7時」
「まだ7時じゃん、おいで」
その声に吸い込まれるように、三上の腕に収まる。
「まだ大丈夫、寝れるよ…」
青を抱きしめたまま再びベッドへダイブした。
「…航」
「……ぐぅ」
「…」
すやすやと眠る三上の顔をじっとみつめる。
咲との約束の時間は午後からだしまあいいや、と青も再び目を閉じた。
次に目覚めたのはウィーンという電子的な音。
ベッドに三上はいなかった。
代わりに、洗面所から音が聞こえる。
音のする方へ行くと髭を剃ってる三上と鏡越しに目が合った。
「あ、おはよ青〜」
「…はよ」
三上の脇の下をくぐりぬけて、顔を洗う。
スッキリした顔で前を向くと、クリームまみれの顔とまた目が合った。
「青ちゃんって髭生えないの?」
「…あんまり」
「あんまり、って顔全然生えてないじゃん。羨ましい〜」
青としては、男らしさの象徴でもある髭が生えないのは悩みの種であった。
「…ないものねだり」
そう呟くと、さっさとリビングへ歩いていった。
青の好物である苺のケーキを2人で食べてから、制服に着替える。
時間を見ると、既に10時を回っていた。
文化祭2日目も遅刻。
しかし瀬戸や進藤からの連絡や教師からの電話がないということは、三上が手を回してくれたのだろう。
「…航、ありがと」
「なんの事?俺なんもしてないよ〜」
笑いながら三上が答えた。
「…行こ」
「そうだね、壮士と隼人も待ってるしね!」
昨日の事は怖かったが、三上達がいるから大丈夫。そう思えた。
学校へ着いて瀬戸達と合流した2人は、4人で文化祭を楽しんでいた。
「あ、チュロス!俺食べたい!」
「あ、俺も」
駆け足で売り場へ急ぐ三上と進藤の後ろを、瀬戸と青がゆっくりついて行く。
「ん〜俺は要らないけど、青はどうする?」
「…大丈夫」
「そっか。何かほかに食べたいものある?」
瀬戸に言われて、周りを見回す。
チュロスの他に、タピオカ、焼きそば、フライドポテトなど、ジャンキーな店が立ち並ぶ。
その中で、一際青の目を惹いた店があった。
看板には『生クリームだけ』の文字。
思わず瀬戸の制服を引っ張る。
瀬戸は驚いたものの、青の視線の先を知ると納得したように笑った。
「じゃああそこ行こっか」
ブンブンと頷いて、瀬戸の制服を掴んだまま向かう。
他の店は大盛況なのに、この『生クリームだけ』の店は誰も並んでいなかった。
「…なんで誰も並んでないんだろ」
「…何でだろうねぇ」
…だろうな、と思いつつも瀬戸は相槌を打つ。
カップかコーンかクレープ生地を選べるらしく、青はクレープ生地を選んだ。
クレープ生地の上にこれでもかと言うほどクリームが載せられ、巻いた後も追いクリーム。
最後にチョコチップを散らして渡された。
キラキラと目を輝かせる青を見ながら、気づかないうちにお金を払う。
「よかったね、青」
「…ん。あ…お金、」
「いいよ、それよりも早く食べな」
こういう時の瀬戸は引かない。
それを知っている青は、素直にお礼を言った。
そこにチュロスを買った2人が戻ってきた。
「おまたせ…って、なにそれ!」
「見てるこっちが胸焼けしそうだな」
3人の視線を無視してかぶりつく。
「〜っ!!」
甘くてひんやりしてて美味しい。幸せだ。
思わず顔を綻ばせた青。
「〜かわいい!青ちゃん…!」
「甘いもの毎日食べてるくせに太らないのがすごいよな」
「青は青の好きな物を食べればいいよ」
「…食べる?」
「「「大丈夫」」」
その後も、青はアイス、クレープ、かき氷など甘味を片っ端から食べていった。
満足する頃には、3人の視線は微笑ましいものから信じられないものを見る目に変わっていた事に、青は気づかない。
「そろそろキャンプファイヤーじゃん」
隼人の声に我に返る。
青は咲と一緒にキャンプファイヤーを見る約束をしていた。
「あ…俺行かなきゃ」
「俺も舞と約束あるんだよね」
青と瀬戸が離脱宣言をする。
「くっそ、羨ましい〜!!!!青ちゃんに至っては盗られたくない!!」
「元々お前のじゃないだろ、馬鹿」
三上と進藤はなんだかんだ言いながらも快く送ってくれた。
キャンプファイヤー場まで瀬戸と一緒に向かう。
今まで散々居たはずなのに、居心地が悪かった。
「…付き合ってどのくらい経った?」
唐突にそう聞かれて、戸惑う。
「…1ヶ月、くらい」
「そっか。早いね。夏祭り行ったのそんな前だったんだね」
「…うん」
「青に彼女が出来て良かった。国山さん、いい子で青とお似合いだね」
ツキン、と胸がいたんだ。
それを隠すように、大きめな声でうん、と返した。
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