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Trac02 Dirty Work/オースティン・マホーン①

『ーーーー大変な仕事さ』 オースティン・マホーン/ Dirty Work 最近ユウジが毎日のように誘ってくる。 「やっぱり上手いヤツとやると気持ちいいよな」 なんて満面の笑みで言ってくるもんだから、俺もアプリなんて放置して付き合っている。 段々とカンを取り戻してきたのか、ユウジも上達してる。ユウジとやるのは俺もハッキリ言って楽しい。 言っとくけどギターとピアノの話な。 ユウジと演奏するのは楽しいけど、困った事に欲が出てきた。例えば、ギターを撫でる指に手を絡ませたいとか思ってみたり、歌が零れる唇にキスしたいとか疼いたり。しばらくセックスしてないから尚更。 そんな訳でまたアプリを始めてしまった。 ユウジはまた嫌な顔するようになって、「やっぱりセックスのがいいんだな」なんて嫌味を言われる始末だ。んな訳ねえだろバーカ。誰のせいだと思ってんだ。 けどハッキリ言って、セックスするのも俺は楽しいのだ。 お、今日はアタリかも知れない。 金曜日の夜。 3つ離れた駅の改札で待ち合わせていたのは、黒の短髪に、彫りが深く精悍な顔つきのイケメンだった。 好みのタイプだ。 美形じゃなくて、こういうハンサムな感じのイケメンがいい。 ゲイは見た目にうるさい奴が多いけど、俺はそんなに気にしない。セックスして快楽が得られればいいという変態だ。でもどうせなら見た目はいい方がいいに決まっている。 「あ、君が鈴木さん?ビックリした。ホントにゲイには見えませんね」 ワイルドな見た目とは裏腹に、物腰も口調も柔らかい。 鈴木は俺がアプリで使っている名前だ。本名は韮崎(にらさき)っていう少し珍しい名字だから、匿名性を高める為に当たり障りのない名前を使っている。 「はじめまして。藤原です」 藤原は背筋を伸ばして軽く頭を下げる。この名前も、本名かすらどうか分からない。でも礼儀正しい態度につられ、俺も自然と背中に力が入った。 「鈴木さん、メシでも食いに行きますか?」 顔を上げた藤原は、人好きする笑みを浮かべていた。それに少し緊張が解れる。 「いや、いいです」 「じゃ、すぐにって事でいいですか」 俺が頷くと、笑みを崩さず行きましょうか、とラブホ街に歩き始めた。 今日はいつもよりちょっとだけいい部屋だ。 外観も綺麗だったし、ソファが置かれるスペースも風呂場にビニールのマットもある。 この辺は女向けの洒落たラブホが多いからな。 俺はベッドとシャワーがあれば充分なんだけど。 「一緒にシャワー浴びませんか?」 藤原は言った。 「いいけど、どっちがネコやんの」 「俺でもいいですか。普段タチやる事が多くて」 「彼氏いるの?」 「彼女の方。それはもうたくさん」 藤原はニヤリと笑う。 「バイなの?」 「ただのお仕事」 コイツ、娼夫やってんのか。礼儀正しいし、身なりを綺麗にして身体も鍛えてるから多分プロだ。でも女専門か。残念だ。洗面所に入ると 「悪いけど、消毒してもらっていい?」 藤原はイソジンを渡してきた。 「ごめんね。職業柄ね」 「俺にはサービスしてくれるの」 「悪いけど、ソレは無しで」 藤原はニコニコしたまま言う。 「セックスは嫌いじゃないけど、今日は自分の好きにしたいんだ」 まあいいや。俺はセックス出来ればそれでいい。

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