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Dirty Work③
「やっぱプロってすげえな」
「だから好きなようにやってただけだよ」
服を着ながら話す。はにかむ顔はとても魅力的だった。
「じゃあ元から上手いんだ」
「そうかな。もうよく分からない」
藤原の彫りの深い顔に影が落ちる。
「女の人の欲望って、結構凄いよ。
ホント星の数ほど望む形が違っててさ。空の星はどれも同じに見えるけど、どれも形も温度も名前も違うみたいにさ」
藤原の言ってる事がイマイチピンとこない。流石に女とはシた事ないし。
「たまに飲み込まれそうになるよ、自分のしたいセックスがわからなくなる」
「考えすぎだろ。気持ちよくなりゃそれでいいんじゃねえの」
藤原は若いなあ、と笑う。
「心のケアが必要な人もいてさ、見た目や身体へのコンプレックスが強い人や、男性に傷つけられた人なんかね。そんな事で?って思うこともあるよ。でも、彼女たちにとってセックスって結構大きなことなんだよね。
女性相手だとただでさえ神経使うんだよ。セックスより、その前の接し方とか会話が大事なんだ」
「そうなんだ」
「一番ヤバイのはセックスが終わった後。
ここで気を抜くと次からもう呼ばれなくなる」
聞いてるだけでゲンナリする。ノンケの男どもは大変だな。
「だから、今日みたいになーんにも考えずにセックスするのは、僕が僕でいる為に必要な事なんだ。ありがとね、鈴木さん」
やっぱりよくわからない。
俺も数え切れないくらいセックスしてきたけど、いつも自分のしたいようにヤッてた。
「なんでそんな仕事やってんだ?」
「月並みだけど、やっぱり喜んでもらえると嬉しいからかな。なんだかんだ言って、お客さん達がカワイイんだよ」
藤原は屈託無く笑った。
「納得いかないって顔してるね。
鈴木さん、好きな人とセックスした事ないの?」
ある訳ねえだろ。色んなヤツとヤッてきたけど、全員その場限りの関係だ。誰とも付き合った事は、ない。
いや、でもセフレはいたっけ。
「ごめん。意地悪なこと聞いたみたいだね」
余計刺さるからヤメろ。
「ちょっとだけサービスしてあげよっか?
男性相手だと気持ちいいかわかんないけど」
「マジで?やった」
単純なもんだ。でも風俗は頼んだ事ないからちょっとワクワクする。
藤原はそこ座って、とソファを指差す。
座ると、藤原は足の間で屈んだ。俺のジーンズのジッパーを開けて、丁寧な手つきでソレを取り出す。
柔らかく広げられた舌を当てられただけで身体の芯が痺れた。舌先を硬く尖らせ先の穴を穿ったり、ざらつく真ん中の部分で舐め上げたり、藤原の舌は自由に形を変える。
フェラであんなに声を出したのは初めてのことだった。
ホテルから出ると、藤原はスッキリした顔付きで言った。
「じゃあね、鈴木さん」
「ん。ありがとな」
俺も顔が綻ぶ。今日はいい日だった。
「やっぱ喜んでもらえると嬉しいよ。
人様に言える仕事じゃないけど、プライド持ってやってるからね」
藤原は胸を張るように腰に手を当てる。それから来た時とは反対方向に歩き出した。
「駅まで行かねえの」
「ジム行ってから帰る。脂肪が付きやすい質だから、鍛えないとね」
天晴れだな。流石プロだ。
背筋の伸びた後ろ姿は、高潔さすら醸し出していた。
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