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Dirty Work④
うちに帰ると、ユウジがギターを弾いていた。
「おかえり」
ちらっとこっちを見て、すぐにギターに向き直る。
俺は何も言わず、電子ピアノの前に座った。
「Stand by meな」
背を向けたまま、だけど柔らかくユウジが言った。
当たり前のように言うユウジに俺は嬉しくなって、わかった、とユウジのイントロを聴いてからBen・E・Kingのボーカルをピアノで弾く。
ーーーーOh stand now by me,
《ああ今傍に》
stand by me,
《そばにいてくれ》
stand by me
《僕のそばに》
ーーーーAnd darlin',darlin',
《愛する人よ》
stand by me
《そばにいて》
oh stand by me
《僕のそばに》
セックスの方がいいんだな、なんて言われた後だから曲のチョイスが笑える。
まあユウジが求めているのは、俺じゃなくて一緒に音楽やってくれるやつなんだろうけど。
ユウジの顔を見れば、口元を綻ばせて呑気に小さく歌っていた。あ、これなんも考えてねえわ。ユウジは演奏しながら姉ちゃんの写真を見ては時々ふっと笑う。
一緒に演ってんのは俺なのに、とちょっとイラっとした。そのくせ気を抜くと、真面目にやれ、とばかりに弦を鋭く弾く。納得いかない。
こっちはこっちで大変な仕事だな。
まあしょうがねえな、付き合ってやるよ。
なんだかんだ言って、俺はユウジがーーー
笑みを浮かべるユウジの横顔を見ながら、そう思った。
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