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You are beautiful②

プラットホームにシルバーの車両が入ってくる。 ドアが開いて、高校生の集団が降りてきた。 ソイツはその集団に目を凝らす。ソイツとは違う学校らしく、制服は胸元に金の糸で校章が刺繍された白いシャツに茜色のネクタイ。 真ん中にいる男子高校生は整った顔立ちをしていて、陸上選手みてえに引き締まった体つきのイケメンだった。 ソイツはイケメンが階段を登って姿が見えなくなるまで、食い入るように見つめていた。 視線を外した後、ソイツをじっと見ていた俺と目が合うと、ビク、と小さく肩が上がった。 「アレが友達?」 「まあ・・・」 ソイツは俺から目を逸らし、怯えを隠すようにスマホを両手で包み込む。まただ。鏡の中の俺が現れた。 ゲイだってバレんのが怖いのはよく分かる。今は全然平気だけどな。 俺はソイツの隣まで歩いて行って腰を下ろした。 「俺もゲイだよ」 ソイツは目を見開いて、今度は口を開ける。 電車が来たから、俺は立ち上がって乗り込んだ。振り返ってホームを見たら、立っているソイツが助けを求めるように手を伸ばしているのが見えた。 次に声をかけてきたのはサムの方からだった。カバンの隙間から、ちらっとSamの文字が見えたから取り敢えずそう呼ぶ事にする。 「あの、あなた、ホントに・・・」 地下鉄のホームで、スポーツバッグの紐を握りしめて、絞り出すように聞いてきた。 「そうだよ」 「初めて会いました」 「隠してるヤツなんてたくさんいるよ」 俺も誰かれ構わずカミングアウトする訳じゃない。隠している訳でもないけど。 「えっと、よく使うんですか、ここ」 「最寄り駅だから」 「全然知らなかった・・・」 「な。そんなもんだよ」 「あ、すいません。そろそろ」 サムは壁の時計を見た。 「ああ、"友達"?」 サムの顔の中心がほんのり色付いた。俺は追い払うように手を振った。サムはすいません、とベンチに座る。 電車が来て、俺は扉をくぐった。サムは降りてくる客を確認し終わると、スマホを見る前に俺の方を見て会釈した。 サムと俺は、顔を合わす度に話すようになった。 「ふうん。じゃあここで見かけてからまだ声もかけてないってこと?」 「うん、まあ」 俺はベンチの横でプラットホームを見ながら立っていて、イヤホンを耳に入れている。音は最小限にして。 サムはスマホを見ながら喋っている。 他人のフリをして欲しいって言われたからな。 「自分でもキモいって思う」 サムは言った。最初は敬語だったけど、段々砕けた口調で話すようになっていった。 「いや、分からんでもない」 あのイケメンにはいつも取り巻きがいたからな。 ジェイムズ・ブラントの歌みてえな話だ。 人混みの中で一目惚れした女を想う男の歌だ。 ーーーーI saw your face in a crowded place    《人混みで君の顔を見つけた》 ーーーーAnd I don't know what to do    《どうしたらいいかわからない》 ーーーー'Cause I'll never be with you    《だって君とは決して一緒にいられないから》 「お前はどうしたいんだ」 「今のままでいい」 サムは唇を結んだ。 「でも、せめて同じ学校だったらな」 反対側のホームをぼうっと見つめる。スマホを触っていた手はさっきから止まっている。 「一緒に居るからって、何もしなきゃ何も変わりゃしねえよ」 出かける時にユウジが見せた顔を見せてやりたい。いつもウンザリした表情で見送られる。 サムは俺を見つめて、それから小さくうん、と頷いた。 ホームに電車が入ってきた。 「じゃ、俺行くわ」 俺は壁から背中を離す。 「そういや、アンタいつもどこ行ってんの?」 「ラブホ」 「えっ」 「だから、セックスしに行ってんだよ」 サムの口も目も全開になった。 何か言ってたけど、イヤホンのボリュームを上げてしまったので分からなかった。

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