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Unravel④

しばらくして、そろそろ大丈夫そうかなって思った時、チカッと小さな光が目を刺した。 「お兄さん大丈夫?」 顔をあげて、黒い靴、細身の懐中電灯、水色の制服の順にソイツの姿を確認していく。 「オイオイ、お前何やってんの?」 最後に、目を丸くしたジョンの間抜け面を拝む事ができた。 ジョンはマッチングアプリで知り合った人間だ。セフレと言っても差し支えないほど頻繁に会っている。 ジョンの肩を借りて起き上がると、めちゃくちゃ痛かったけど、とりあえず歩くことは出来た。 病院は嫌だとゴネたら交番に押し込められた。 何があったか聞かれたから集団でボコられたと話すと、肩とか腕とか背中とかベタベタ触ってきた。 「まあ骨までいってないっぽいな。歩けるし、大丈夫だろ」 と絆創膏だけ渡された。雑だなオイ。 「心当たりは?」 「多分寝た相手がマズかった」 ヤツの「バーカ」と言う呆れた顔すらイケメンでイラッとした。 「どうする?被害届出す?」 「別にいい」 面倒な事になりそうだし。 「ま、それならそれでいいけどな。送ってやるよ」 ジョンは立ち上がる。丁度入れ替わるように若い警察官が交番に入ってきた。 「ごめん、俺ちょっとこの兄さん送ってく」 「ええ?!勘弁してくださいよ先輩・・・」 若い警察官は肩を落とした。 「勝手なことばっかりして・・・」 ブツブツ言いながら、引き出しから紐で閉じられた冊子を取り出して、机に向かってなんか書いてた。 気の毒に。コイツもジョンに振り回されているんだな。 何も悪いことはしていないはずなのにパトカーに乗るのは気が引けた。でも正直歩いて帰るのはしんどかったから助かる。 「ヤバイおっさんとでも寝た?」 ジョンは運転しながら言った。 「いや、めちゃくちゃ美形だった」 「マジで?ちょっと顔見てみたいかも」 くつくつと喉を鳴らす。 「他の部署のヤツにちょっと色々聞いてみるよ。どんなヤツらだった?」 覚えている限りの特徴を話すと 「じゃなんか分かったら話すから連絡先教えて」 と爽やか過ぎて逆に胡散臭い笑みを向けられた。 「ヤダ」 調子に乗ってんじゃねえよ。 「じゃあアプリでメッセージ送っても毎回無視すんなよ」 「気が向いたらっつったろ」 ジョンはあーあ、とシートに身体を倒し、艶っぽい目をこちらに寄越してくる。 「仕事中じゃなかったらお前なんかグチャグチャに啼かせてやるのに」 「そういうとこだよド変態」 家の近くまで送ってもらったから、申し訳程度に礼を言っておいた。ジョンの 「また連絡するから相手してよ」 という言葉は無視しておいた。 それから何日かして、知らない番号から電話がかかってきた。うっかりそれに出ちまったのが運の尽きだった。 『お前、鈴木って名前じゃなかったんだな』 「誰?」 聞き覚えはあるんだけど、誰だか分からず記憶をたぐり寄せる。 鈴木はアプリで使ってる名前だ。アプリで会ったヤツには番号はおろか本名すら教えてない。 『ショウイチだよ』 「だから誰だよ」 『この前送ってやっただろ』 あ、やっと思い出した。 「ああ、ジョン?」 『だから翔一だっつってんだろ』 ジョン、もとい薮井翔一巡査長から3駅離れたホテルに呼び出された。他人に話を聞かれたくないって言う建前だけど絶対ヤル気だろ。 別にコイツとセックスするのは嫌じゃないけど、予測できない言動に振り回されたり長丁場になるセックスには気力も体力もすり減らされる。楽しみは楽しみだけど、ほんの少しの陰鬱さ、煩わしさが混じる。長編の小説や映画を見る前の気分に近い。ヨシ、と気合いを入れて臨む必要がある。 ホントやりたい放題しやがるからな。 てかどうやって番号を調べた。職権濫用ってヤツじゃねえのかコレ。

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