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Unravel⑤
部屋に入ると写メを見せられた。
「コイツ知ってる?」
プラチナブロンドに、濃いまつ毛に囲まれた青い目。
「夕?」
「セックスした?」
「したけど」
「この馬鹿」
相手は選べ、と割とマジなトーンで言われた。
「コイツはヤクザの情夫だよ」
「まあそうだろうなとは思った」
「詳しくは言えないけど、結構ヤバイとこのヤツだぞ 。お前よく殴る蹴るで済んだな」
あの銀縁眼鏡の奥の獰猛な目を思い出した。流石に鳥肌が立った。
「俺やっぱりマズイことした?」
「いや、相手を取っ替え引っ換えだったらしいけど、コイツの男がヤバイヤツみたいだな。カタギに暴力沙汰をしょっちゅう起こして、結構ゴタゴタしてるみたいだ。その内警察に引っ張られるかもな。
コイツも大概だけどな」
ジョンは夕の写真を指で叩く。
「前に一緒にいた男も同じように身を滅ぼしてる。綺麗な顔してエグいやつだよ。魔性だよ魔性。
身寄りもないし、戸籍もないから調べてもよくわからない」
「どういうことそれ」
「無戸籍児っていってな、存在してないはずの人間のことだ」
なんか変なの。
銀髪、身体中のピアス、青い目。全力で存在を主張しているような派手なナリだったのに。
「透明人間とか幽霊みたいなもんだ」
透明人間。そういえばそんなこと言ってたな。
「戸籍がないから小学校にも行けない、保険証も作れないから医者にもかかれない、住民票は作れるようになったけど、書類や手続きは山ほど。まともに学校行ってないヤツや親がいないヤツには厳しいだろうな。
アイツはヤクザに飼われて生き延びてたみたいだな」
まるで現実味の無い話についていけない。
高卒の俺でも日本語を理解するのがやっと。
「そんなヤバイヤツに見えなかったけどな」
スレてねえガキがそのまま大人になったようなヤツだった。
「そういうのが男を狂わせるんだろうな。
アイツとはこれっきりにしとけよ」
「わかったよ」
「あっさり言ってくれるじゃねえか」
ジョンはため息を吐いて
「俺さ、これでも真面目にやってきたんだよ」
それから睨め付けてきた。
珍しくちょっと怒っているみたいだ。
「親の七光りだって言われたくなくてさ。
割とキチンとオマワリさんやってきたと思うんだよ」
「なんの話だよ」
「俺、初めて親のコネなんて使ったよ」
翔一はもう一度ため息を吐いて、額に手を当てた。
「どういうことそれ」
「ヤクザに二度と関わるなってことと、お前は俺に借りを作ったってこと」
翔一は、俺の腕を引いて噛み付くようにキスしてきた。
「キッチリ返してもらうからな」
口の端を上げて凶悪に目を歪ませる。どっちがヤクザなんだか。
「ま、今日は普通にセックスするだけにしとく。今回で終わりとか面白くないし」
翔一はそのまま俺を腕の中に納めて腰を撫でてくる。
タチ悪いなコイツ。そんでやっぱヤるのかよ。
別にいいけど。
やっぱりコイツはHated John《嫌われ者ジョン》で十分だ。
「覚えてろよハジメ」
ジョンはさっきよりも深くキスをしてきた。名前覚えられた。最悪だ。
でもそんなことセックスしてるうちにどうでもよくなる。最悪だ。
終わった後、ジョンの誘いを断って1人でシャワーを浴びながら夕の事ふっと思い出した。
死体を背負った背中。
銀髪、身体中にぶら下げた金属片、凍った青い目。
あんな風変わりでガキ臭くてこの国のどこにも存在してない人間のことなんて、ちょっと忘れられそうになかった。
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