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Trac06 Where Can I Go Without You /ペギー・リー、ヴィクター・ヤ
『ーーーー君無しで何処へ行こうというの?』
ペギー・リー、ヴィクター・ヤング /Where Can I Go Without You
木曜日の夜だった。
霧雨がパラつく駅のロータリーは送迎の車が数珠つなぎになって、のろのろと窮屈そうに進んでいる。
見ているだけで息が詰まりそうで、ウォークマンでジャズを聴いていた。
それだけで周りの景色が湿った空気に滲んで、情緒溢れるMVみたいに見えるから不思議だ。
駅の庇の下でアプリを見ていると、ふいに肩を叩かれた。
困った。外国人だ。
金髪に緑がかった青い目。下手すると二メートル近くありそうな、ガタイのいいビジネスマン。見た目はアメリカ人っぽい。
なんだ?道案内とか無理なんだけど。ラブホまでしか行ったことないし英語喋れないし。
「スイマセン、ちょっとお聞きしたいんデスけど」
よかった。ちょっとイントネーションが違うとこもあるけど日本語だ。
「あの、鈴木さんですか」
・・・マジか。今夜の相手はコイツらしかった。
ソイツはケントといった。
メッセージは日本語でやり取り出来てたし、名前は日本人でも通用するし、まさか外国人だったとは。
「鈴木さんカワイイね!会えてうれしいよ」
ケントは駅前で堂々と抱きついてきやがった。あ、これダメなヤツ。ノリについていけない。
「ホテルは?」
さっさとヤッてしまおう。
「こんなカワイイ子とすぐsexするなんてもったいナイよ。ディナーに行こう」
ケントは俺の頭を撫でながら言う。
オイ、お前には周りのオッさんや高校生のガキどもの顔が見えねえのか。スマホを向けてくるヤツさえいる。舌打ちして
「わかったよ」
と言うと嬉しそうに頬にキスしてきた。
だからヤメろ。
ディナー、と言っていた割には質素な、というか普通のラーメン屋に連れていかれた。まあ高そうなレストランとかに入るのもごめんだけどな。
ケントはトッピング全部のせを日本人より綺麗な箸づかいで、でも豪快に口に送り込んだ。
一口で三分の一ほど麺が減っていく様に目を奪われて思わず箸が止まる。
「鈴木さん、お腹すいてナイの?」
替え玉をしたケントはレンゲの上に麺と細切れになったトッピングを乗せて、小さなラーメンを作りハフハフしながら食べていた。女子か。
「あんまり食べると、セックスの時苦しくなるから」
というか食事にはあまり興味がない。ユウジが作ったのは別だけど。
「鈴木さんsex好きなんだね」
ケントはニコニコしながら、スープの中で泳ぐ麺を箸で拾う。
「ボクも好きだよ。日本人の男の子ってカワイイよね」
「わかった、俺が悪かった。だから黙っとけ」
器を下げにきた若い店員は足早に去っていった。
「・・・でも日本人、外国人キライだよね」
それを見て、シュンと体を一回り小さくする。
「そういう事じゃねえよ。あれだ、日本人は外国人よりゲイの方がキライなんだよ」
「そう?距離を置いてそっとしておいてクレルから、まだやさしいと思うよ」
「ふぅん。意外」
海外の方が寛容なイメージがある。少し興味が湧いて耳を傾けた。
「ゲイってだけで、すれ違っただけで殴られる国もあるし、Islāmでは犯罪だし、ボクの国でも反対する団体がイルよ」
「そうなんだ」
要は拒絶の仕方が激しいんだな。
海外なんて行ったことないし、パスポートすら持っていないから想像もつかない。
「色んな国行ったよ。England、France、Singapore、Austria、Swiss、他にもたくさん」
「旅行好きなの?」
んー、まあね、とどこか気の無い返事が返ってきた。
「ボクの仕事はパソコンがあればどこでもできるカラ。楽しいコト探してる」
口元は笑っていたけど、眉根を寄せてあんまり楽しくなさそうな表情だった。
ケントはスープを最後の一滴まで飲み干すと、
「行こうか」
と熱っぽい視線を送ってきた。
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