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4『恋風』

昭和19年4月 満州国首都・新京 「さくら眞行寺様が外でお待ちかねよ」 洗い物を片付けていたさくらは女店主のミンに声を掛けられた。 「何もたもたしてるの」 ミンに急かされ勢いよく外に飛び出すさくら。 どすん、鈍い音がして。さくらはカーキ色の詰襟の軍服を着用した将校と派手にぶつかった。 「君は相変わらず元気だね」 その将校は咎めることなく、体勢を崩し転びそうになったさくらを優しく抱き起こしてくれた。 上品な物腰でにこやかに微笑み掛ける将校にさくらの頬は桜の花弁の様に染まっていった。 彼の名前は眞行寺貢。 華族出身で陸軍大学校を首席で卒業したエリート中のエリート。 ここを統治する関東軍の主力部隊の一つである大陸鉄道司令部並び関東軍鉄道隊司令部直属の鉄道連隊・鉄道第二十連隊聯隊長。 一年前に赴任した彼は数日後帰国し参謀本部への勤務が決まっている。 そのことは当然ながらさくらの耳にも入っていた。えへへ会えなくなる寂しさを誤魔化そうとわざと明るく振る舞った。 来春もずっとお側にいたい。自分の想いを押し殺して。

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