校内で見つかったら友チョコ、本命に関わらず如月先生に没収される。生徒たちは戦々恐々としていた。 学校の外で渡せばいいのにどうして高校生は同じ過ちを繰り返すのか。どんなに如月がぼやいても没収箱は毎年チョコでいっぱいだ。 4時限目の授業を終え職員室に向かっていた如月は、中庭のベンチに腰かけている生徒に気が付いた。マフラーをぐるぐる巻きにしてぼんやりと空を見上げる。つややかな髪が冬の光が反射してリング状に輝いていた。 「絲井、寒くないのか」 はじかれたように立ち上がった胸元にネクタイが揺れる。如月の顔を見るなり手に持っていた箱を後ろに隠した。 「お前なぁ......校内でもらったのか？」 慌てて首を振る絲井の瞳は潤んでいて涙がこぼれそうだ。黙って手を差し出すと、伏せたまつ毛が頬に影を落とし、古い宗教画の天使のようだった。こちらが悪いことをしているような気分になる。 「悪いが規則だ」 おずおずと差し出された箱を掴んだ瞬間、ぱっと顔が上がり満面の笑みが広がった。 「先生、それ僕が作ったチョコだから、責任をもって食べてくださいね」 あっけにとられる如月を後に軽やかに階段を上る絲井の背中はあっという間に見えなくなった。