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9『春の賭け』
「聞いた? 先輩、彼氏と別れたってよ」
「知ってる」
「じゃあチャンスじゃん、告れよ」
「やだよ」
「なんで?」
「だって…、何か弱みにつけ込むみたいじゃん」
「いいだろ、そんなの。お前が別れさせたわけじゃねーし」
「でも嫌いになって別れたんじゃないし、そんなすぐ次っていかないでしょ」
「それはわかんないじゃん。遠距離だから別れるってことはそれだけの気持ちがなかったってことだろ?」
「…そうかも知れないけど」
でも僕は知っている。
ひと気のない生徒会室で、先輩が彼と別れの挨拶をした後に一人で泣いていたこと。
「次を狙ってる奴、ほかにもいるかもよ?」
「そんなにゲイがいるわけない」
「わかんねーぞ。お前だって内緒にしてるだろ」
「そりゃまあ…」
「いいじゃん、今すぐがダメでも候補者として名乗っておけば」
「そんな簡単にいくかな」
「いかないと思うけど、それはお前がゲイだからじゃねーぞ」
僕ははっとして顔を上げた。
「好きな人が好きになってくれるなんてラッキーはそんなに多くない、だろ?」
「確かに」
「言わなきゃ始まんねーぞ」
「…そうだね」
窓の外に大きな桜の木が見えた。
僕は密かな賭けをする。
もし、終業式までに桜が咲いたら……。
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