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兄弟【春人·宗平·裕大】3

「待っ…、宗平っ!なんで…!?」 「『なんで』って…、それはこっちのセリフだろ?なんで、裕大なんだよ…?」 裕大が部屋に泊まった日から2ヶ月半…。 その日から宗平は春人の部屋を訪れることは無くなっていて、春人は裕大の荒療治のようなこのやり方も結構効果があるものだなと思っていた。 宗平のことが心配ではあったが、傷は宗平自身が時間を掛けて癒していくしかないと、裕大にも言われていたし、春人もそう思っていたのであの日から特に春人から宗平に連絡することは無かった。 しかし久しぶりに部屋へとやってきた宗平は、宅配だろうかと扉を開けた春人の腕を掴み部屋へと押し入るとキツく春人を抱き締めて、普段の宗平には似つかわしくない荒々しいキスをした後、先程の質問を春人に投げかけてきた。 「答えてくれよ、春兄。同じ弟で、男なのに…なんで俺じゃなくて裕大なのか。」 「それは……。」 そんなものは無い。 そもそも春人は裕大か宗平、どちらかを選んだ訳では無いのだから。 言葉を詰まらせた春人を宗平は静かに見下ろすと、ゆっくり笑った。 だが、春人は何故ここで笑うのかと疑問に思うと同時に背筋を冷たいものが這って行く感覚に身震いする。 「じゃあさ、体の相性が良かった方を選んでよ。」 「………は?」 何を言われたのか、春人は理解出来なかった。 キスもしてこなかったような男から突然出た提案を、聞き間違えてしまったのではと思いながら何度も頭の中で反芻し、何か違う言葉に置き換えようと必死になる。 そんな春人の腕を宗平が掴んでベッドに押し倒した。 「宗平ッ!やめっ…。」 必死に抵抗しようとするのだが、宗平はその腕を纏めあげると脱いだ自身のシャツで春人の腕を縛り上げた。 「痛っ…。」 ギリギリとキツく、逃れられないように縛られ、軋む腕と同時に口からも非難の声が零れる。 しかし宗平はそれにも顔色1つ変えなくて、やはり普段と違う弟の様子に春人は焦ってしまう。 「なぁ、裕大はどこに触れた?」 腹部を這った宗平の手に、春人はビクリと大きく体を跳ねさせる。 宗平はそんな春人の反応にまた笑うと捲り上げたシャツの中から顕にされた肌にレロー…と長く舌を這わせる。 恐怖からカタカタと震え出した春人。 もう、誤魔化している場合ではないのだと、全てが春人に警鐘を鳴らしているような、そんな気がした。 「待って。宗平。ごめん。嘘なんだ。裕大とは、本当は何も無くて、だから…。」 心臓の音に合わせるかのように、ブツブツと早いテンポで次々と喉から飛び出した言葉たち。 とにかく、宗平を落ち着かせたくて必死だった。 しかし───…… 「そんな不安がんないでよ。大丈夫だって。現実なんて忘れるくらい、気持ち良くしてやるから……。」 蕩けたように恍惚とした表情の宗平が言ったその言葉を聞いて春人は硬直する。 だが宗平はそんな春人を見てまた笑った。 「2年間待った分、たくさん愛させて。」 -------------- 「お父さん。宗平が寮出て春人と一緒に住めないかって言ってるんだけど、聞いた?」 「春人と?春人が住んでるアパートは宗平の大学から2時間近く掛かるだろ?」 残業から帰ってきた父親に料理を出しながら母親が始めた会話を、テレビを見ながら裕大は耳に入れる。 「それが春人の今の部屋との中間に新しく部屋を借りてそこに一緒に住みたいんですって。もー、仲が良いのは良いけどいつまでも兄離れが出来ないと困っちゃうわね!」 ドンッと勢いよく料理を置きながら愚痴を零す母親に父親は「まぁ仲悪いよりは良いじゃないか。」とフォローを入れる。 「春人は何て?」 「『別に構わない。』って。でも春人、また弱ったような声してたし、昔からあの子だけ貧弱だったから近くで見守る人が出来るのは安心かしらね。」 兄に対する『貧弱』という母親の表現に裕大は吹き出しそうになるが、3ヶ月前に掴んだ腕の細さを思い出して「あの腕で宗平を払い除けるのは出来なかったのだろうな。」と考える。 「……意外。」 裕大は含むようにボソリと呟く。 裕大から見た宗平の印象は反吐が出る程に理性的で紳士的。 母親の腹の中にあった綺麗なものだけを掻き集めて産まれてきたのかと思わせる程だった。そうして綺麗なものが何も無くなった後に産まれてきたのが自分なのではないか、などと、そんな馬鹿らしいことを裕大に考えさせるくらいに。 だがこうなってから考えてみると、彼は心の中に層を持っていただけなのではないかとも思えてくる。 綺麗なものだけが浮上して出来た表面と、その下に沈む、暗く淀んだ底の見えない濁り。 それが、裕大により少しばかり掻き混ぜられて、顔を出した。 「…年末こっえ。」 年末に実家に帰ってくる予定の2人の兄たちのことを思って裕大は少しばかり肩を竦め、笑った。 end

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