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第3話
「お父さんは、ちゃんとわかってくれてましたよ」
そう言った。
「……は?」
「急に言われてびっくりして、なにも言えなかったんだって」
思っていたのと違う展開とその発言に当然疑問を持つ俺を置いて、晴はすらすらとなにかを語る。
いや、なにかではない。それは、心当たりのある話だ。だって今、晴は言った。「お父さん」と。
「連絡できなかったのは、自分が悪いんじゃないかって悩み続けていたせいだって言ってます。自分がケンカばっかりしていた奥さんと離婚して、その後結婚しなかったせいで女の人に対して偏見を持っちゃったせいじゃないかって思ったらしくて」
「なに言ってんだお前……」
「一度、意を決して話してみようと電話したけど、その時にはもう電話番号が変わってて連絡がつかなかったって言ってます」
「言ってますって、誰が」
「星哉さんのお父さん」
まるで本当に聞いてきたことのようにぺらぺらと喋る晴は、こともなげにそう言ってみせた。俺の父親の話だと。しかも過去形じゃなく、まるで今の話のように。そんなはず、ないのに。
「なんだ、どこで調べてきた」
一気に警戒が強まる。
やっぱり家を訪ねてきたのは偶然じゃないのか。俺をターゲットとしてなにか調べてきたに違いない。
……ただ、どこでどう調べてきたというんだ。そしてそれになんの意味があるんだ。そんな、まるで本人が言っていたことのように話して、誰が得をするというんだ。
「うーん、変わった呼び方とかしてくれてればわかりやすいんですけど、普通に『星哉』って呼んでたんでしょ? それに中学の時からあんまり話していないからこれと言って証拠となる話がないって」
もっともらしい話を作ることなんか簡単だ。だけど晴はそんな素振りも見せずあっけらかんと真実を語る。
実際そうだ。それになにか特別な話をされたって俺が覚えていない。
だって中学で親が離婚して母親が出て行ってそこから話さなくなって、高校の時にゲイバレしてそのまま家を出てきた。それから二度と喋る機会がなくなった。別にそれでいいと思っていた。
男らしい父親にはゲイなんて存在が認められないだろうし、実際俺がそうだと言ってもなにも言わなかった。なにも言ってくれなかった。だから家を出た。それから八年近く経つ。去年父親が死んだということを知ったけれど、それ以上の気持ちはなかった。結局最後まで分かり合えなかったんだなという事実を飲み込んだだけ。
それを、どうしてこいつが当たり前のように語るんだ。
「……おかしいって思いますよね? なにかの詐欺かって、いつも言われます」
俺の態度が変わったのを見て、晴は小さく笑って肩をすくめる。それはこういう反応に慣れている態度だ。
「色々回りくどく言ってもわかってくれない人はわかってくれないし、だからもう最初から伝えたいことだけ伝えちゃおうってことでスタンスでいるんですけど、まあ戸惑いますよね」
「どういう、ことだ?」
詐欺じゃないならどうして俺の父親の話を知っている。父親の知り合いで、その言葉を伝えるために俺の家を訪ねてきたってことか? それだったらそう言えばいい。ただ、どれだけの知り合いだったらこんな心境を話して託す? 息子がゲイで、それを知った時にどう思ったか、それを伝えてくれと人に託すか?
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