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第5話

「んー変だと思われてるついでに言っちゃいますけど、僕幽霊を見るのはそんなに得意じゃなくて、しかも声は聞こえないんですけど、後ろのお姉さんが通訳してくれてわかるんです」 「待て。後ろのお姉さんとは」 「僕に憑いているお姉さん。色々教えてくれるし世話も焼いてくれる人なんですけど、彼女とだけは感覚が繋がってて、彼女を介して幽霊と通じ合えるというか……ううん、やっぱり自分で言っていても怪しいなぁ」  幽霊は見えるけど声は聞こえないから、自分に憑いている霊に通訳してもらう?  騙すならもっとうまく騙してくれればいいのに、聞いているだけでこんがらがる説明をされ、当然ついていけなくなっている俺。そんな俺の前で、説明した当人でさえ首を傾げている。  ただ、「後ろのお姉さん」というのが、元締め的な悪党の意味で言ったんじゃないことだけはわかった。俺の思った、「バックについている」というのはある意味その通りで、霊として「後ろに憑いている」ということだったらしい。 「インチキだと思ってくれていいです。伝えることは伝えたんで」  言うべきことは言って、それで満足したのか爽やかな笑顔を浮かべる晴を見て、今度はこっちが考え込む。  人に憑いている幽霊と心の寂しさが見える、春を売る男。  ……冗談で言うなら、もっとわかりやすい設定にするだろうし、説明だってうまいはずだ。  なにより、実際晴の言葉で俺の中に感じていた重く凝り固まった雪の塊が溶けていくのを感じた。これはもう、感覚の問題だ。  だから感覚でわかる。晴の言ってることは、全部本当なのだと。 「あ、あともう一つ。星哉さんが仕事してる姿が立派で嬉しいって。この前お客さんにシェーカー振ってるの褒められてて、星哉さんの影の努力が認められたのが嬉しかったって。でも、練習のためとはいえあんまり家で飲みすぎるな、だそうです」 「……なに見てんだよクソ親父……!」  ついでのようになにをさらりと恥ずかしいことを暴露してくれてるんだ。信じた。完全に信じた。だからこそ余計さっさと成仏しやがれと思った。  なぜなら店ではなんとなくできたってことにしてるからだ。見様見真似でやってみたらできたから、これからやっていこうかなぐらいのテンションで一回だけシェーカーを振った。だけど本当は隠れてずっと練習していたんだ。でもちまちま努力してるのを知られたくなくて、家でカクテルを作っては飲みすぎて潰れることが多かった。でも誰にも話していない。だから誰も知らない。  まさかそれを全部見られていた上に、ここで言われるなんて。 「……待てよ。ってことは、他にも色々見られてるのか?」 「いえ、幽霊って、出てくるのに結構パワー使うんです。だから別にずっといるわけじゃないですよ。お父さんも、家に人が来るときはどこか行くそうです」 「お気遣いどうも」  本当かどうかは知らないけれど、一応そういう分別はあるらしい。まあ、ただ見たくないだけかもしれない。  でもまあ、そんな父親にわだかまりを抱いていることがバカらしく思えてきて、そんなことに拘っているのがとてもくだらなく思えた。本当に父親と腹を割って話した気分だ。 「うん。もうすぐ全部溶けそうですね。寒くなくなって良かった」  その晴れ晴れとした気持ちがちゃんと読み取れるらしく、晴は自分のことのように嬉しそうににこにこと笑みを浮かべた。整った綺麗な顔をしている分、無邪気な笑顔が乗ると可愛い雰囲気になるのがとてもいい。 「それじゃあ、春も届けたので僕は行きますね」 「ちょっと待った」  ぺこりと頭を下げ、そのまま立ち上がろうとする晴の手を掴んで止める。さすがにこのままなにもなく帰すわけにはいかない。 「あ、お父さんはもう少しだけ見守りたいそうです。気持ちが楽になったからもうちょっと出歩きたいって」 「未練なくなった途端に自由すぎだろ」  俺に手を掴まれたまま、上げかけた腰を再度下ろして付け足してくるものだから、思わずつっこんだ。俺に言いたいことを言って満足したのか、父親は素直に成仏せずにもう少しここにいるらしい。見守るとか言いつつ、ふらふら遊び回る気満々じゃねぇか。どれだけ肩の重荷を下ろしてるんだ。

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