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第二章・恋の始まり
金曜日、8時に間に合うよう駿は早めに天宮司家の邸宅へ到着した。
ところが。
警備員に名刺を見せて、塀の内側へ入れてもらったが。
「家が見えない!」
警備員が、のんびりした口調で話す。
「ここからお屋敷まで2㎞近くあるからね。走った方がいいよ」
信じられない!
天宮司さん、お金持ちだって聞いてたけど、まさかここまでとは!
朝食を食べていない身にはこたえたが、遅刻すると彼は怒るだろう。
駿は必死で走った。
屋敷までやっとの思いでたどり着くと、伊織はちょうど玄関から出たところだった。
「て、天宮司さん……ッ」
「遅いな。主人より10分前に動くのが従者の基本だ」
「ご、ごめんなさい……ッ」
息を切らす駿を見て、伊織は鞄を突き出した。
「まあいい。さ、鞄を持って」
「は、はい!」
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