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第二章・5
休み時間のたびに、駿は伊織のクラスを訪ねた。
「ご機嫌いかがですか、伊織さま」
「英語教師の発音がスラングで、気分が悪い」
「ご機嫌いかがですか、伊織さま」
「数学教師の板書が雑で、気分が悪い」
「ご機嫌いかがですか、伊織さま」
「物理教師の学説が最新でないから、気分が悪い」
昼休み、生徒会室で重箱の弁当を広げながら、駿は伊織に話しかけた。
「伊織さま、いつも気分が悪くて大変ですね」
「ああ、そうとも。私はいつも大変なんだ」
ふん、と鼻を鳴らした後、伊織は気づいた。
他の従者たちなら『伊織さま、いつもさすがですね』と持ち上げてくるところだが。
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