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第二章・13
「……驚いて、声も出ません」
「そうか。こういった菊を見るのは、初めてか」
伊織は嬉しそうに、すぐさま野点の準備をさせた。
「菊を愛でながら、外で味わう茶はいかがかな?」
「美味しいです……」
高くて青い、秋の空。
もう冷たくなってきた風が、頬を撫でる。
ああ、これは夢なんじゃないかな。
僕は眠って、別世界を見ているんだ。
起きるとそこは、冷たい床の上なんだ。
「何、考えてる?」
「これは、夢じゃないかな、って」
伊織は愉快そうに笑って、駿の頬をつねった。
「痛い!」
「安心しろ。天宮司 伊織の創る世界に夢はありえない」
全て、現実のものだ、と伊織は誇らしげに言った。
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