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第二章・16

 伊織の広い背中には、紅い痣があった。 「駿。君にはこの痣が、何に見える?」  笑いを含んだ、伊織の声。  駿は、黙って絹のタオルで背中を擦り始めた。  伊織さまは、多分この痣を気にしてる。  だから、黙っていた。  重ねて、伊織が問うてきた。 「何に見える」 「僕には、何にも見えません」 「そうか」 「はい」  後は、大人しく駿に無防備な後ろ姿を晒す伊織だった。

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