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第三章・10

「おはようございます、伊織さま」  伊織から鞄を受け取り、駿は共に自動車へ乗り込んだ。  嬉しいな。  今日は、一日中伊織さまと一緒。 「どうした、駿。今朝はやけに上機嫌だな」 「そ、そうですか?」  それはそうと、と伊織は少し怖い顔をした。 「夕食は、ちゃんと夕食時に食べたまえ。また元の痩せっぽちに戻りたいのか」 「ごめんなさい」  伊織さまが、僕の心配をしてくれる。  それも、駿の心を熱くした。  今日は、今日だけは、僕だけの伊織さま。  弾んだ気分で伊織の靴棚を開けたが、中からなだれて来たラブレターの山に、心が乱れた。

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