60 / 223

第三章・14

 伊織は両手で顔をひとつ拭うと、駿を抱き寄せた。 「わ。伊織さま!?」 「可愛いなぁ、駿は」  本当に、可愛い。  自分の気持ちに気づかないなんて、本当に鈍感なΩだ! 「駿。君のこの気持ちには、古くから名前が付いている」 「え!」  それは……。  伊織は、駿の耳元で囁いた。 「ジェラシー。嫉妬、だよ」  君は、木曜日の少年に、嫉妬して泣いていたんだな。  伊織のささやきは、耳元だけでなく耳朶を食んだ。  こり、と甘い刺激が駿の身に走る。

ともだちにシェアしよう!