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第三章・16
放課後、天宮司邸でのお茶の時間に伊織はふと駿に訊ねた。
「そういえば、駿。君は何か欲しいものはあるか?」
「欲しいもの、ですか」
欲しいものは、すべて伊織のおかげで手に入れた。
安定した衣食住に、虐げられない学園生活。
これ以上、何を望むものがあろうか。
素直にそう答えると、伊織は苦笑しながら返した。
「ホントに君は無欲だな。そして、鈍感だ。もう12月だよ? クリスマスプレゼントを贈ろうと言っているんだ」
「クリスマスプレゼント!?」
あっという間に駿は、妄想に耽ってしまった。
きらきら光るクリスマスツリー。
可愛らしいケーキ。
そして、靴下の中のプレゼント。
どれも、子どもの頃からの夢だった。
そして、そんなものはただの一つも得られずに過ごしてきた。
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