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第三章・18
「私の絵に気づいていたのか? まさか、そこまで細かく見ていたとはね」
「大きな、立派な絵でなくてもいいんです。小さくても、伊織さまの描いたものなら何でも」
本当に、面白い個性だ。
御影 駿は面白い。
他の従者にも、同じように問いかけたが、こんな回答は初めてだ。
『伊織さまが欲しゅうございます』
皆、口をそろえてそう言ったというのに、この金曜日の少年は!
「それだけか? 他に欲しいものは思いつかないか?」
「いえ、伊織さまの絵で充分です!」
なぜそこで、気づかない!
伊織さまが欲しいと、言わないんだ!
「……鈍感」
「何か言いましたか?」
「別に何も」
お茶が冷める、と伊織はカップを手にした。
心は冷めるどころか、どんどん熱くなってゆく一方なのに。
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