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第四章・26
「たとえ金曜日の少年であろうとも、誰も通すな、と伊織さまはおっしゃっていてね」
「そうですか……」
では、と駿は手にした花束を男に差し出した。
「これを伊織さまに渡してくださいますか?」
「解った。承ろう」
そして、にやりと笑った。
「伊織さまの予言通りだな」
「予言?」
「金曜日の少年だけは、たとえインフルエンザと解っていても来るだろう、とね」
何だか気恥ずかしくなった駿は、ぴょこんとお辞儀をして駆け出した。
伊織さま、僕のことなら何でもお見通しなんだな。
柔らかなオレンジ色の、バラの花束。
香りは薄いものを選んでもらった。
「伊織さま、早く元気になってください」
メールを送ると返信がしんどいだろうと思い、ただ言葉にして風に乗せた。
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