110 / 223
第五章・12
ベッドでなら裸身を晒すのに、どうしてお風呂だと恥ずかしいのかな。
そんなことを考えながら、駿は伊織の背中を流していた。
「駿、私の背中の痣なんだが」
「はい」
初めてお風呂の世話をした時に、伊織が語った赤い痣だ。
それきり、話題にしてこなかった伊織だが。
「私が幼い頃、実母に熱湯をかけられたんだ」
「え……」
「彼女はその時、心を病んでいてね」
今の母は、二人目の女性だ、と伊織は告白した。
天宮司家の、いわばスキャンダルを、僕に。
僕なんかに、打ち明けてくれた伊織さま。
そこにいるのは、可哀想な18歳の少年だ。
だが、憐みの言葉を彼は求めてはいないだろう。
高潔な彼に、慰めの言葉はかえって失礼だろう。
ともだちにシェアしよう!