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第五章・12

 ベッドでなら裸身を晒すのに、どうしてお風呂だと恥ずかしいのかな。  そんなことを考えながら、駿は伊織の背中を流していた。 「駿、私の背中の痣なんだが」 「はい」  初めてお風呂の世話をした時に、伊織が語った赤い痣だ。  それきり、話題にしてこなかった伊織だが。 「私が幼い頃、実母に熱湯をかけられたんだ」 「え……」 「彼女はその時、心を病んでいてね」  今の母は、二人目の女性だ、と伊織は告白した。  天宮司家の、いわばスキャンダルを、僕に。  僕なんかに、打ち明けてくれた伊織さま。  そこにいるのは、可哀想な18歳の少年だ。  だが、憐みの言葉を彼は求めてはいないだろう。  高潔な彼に、慰めの言葉はかえって失礼だろう。

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