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第六章・3

 神社の人ごみは想像以上だったが、伊織と駿はさほど苦労せずに拝殿へ到着することができた。  なにせ二人の周囲には、黒服に黒いサングラスのいかつい男女が数名控えているのだ。  人も避けて通るというものだ。 「伊織さま、お賽銭は財布ごと投げないでくださいね!」 「だめなのか?」  伊織の長財布には、一つに付き現金が100万円入っている。  それを投げ込んでは、神社側も困惑するだろう。 「はい、小銭です」 「うん」  二人で100円玉を賽銭箱へ投じ、鈴緒を持った。  大きな本坪鈴を鳴らし、礼拝する。  二人の間に、わずかな静寂が流れた。  顔を上げて一礼し、笑顔を交わした。

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